026 適合者 その3
「本人の辞退もあることですし、いきなり貴族様扱いするのもつらいので、まだ聞いてない事にしましょう。」
さすがは看護婦、話が早い。きっと自分が呑み込めなかったのが最大の理由だろうが、そこは気にしたら負けだ。
「というわけで医師先生もそれでお願いします。というか、この炭鉱で俺が領地の跡取りと知ってるのって何人位いるんですか?」
管理者グループはたぶん知っているだろうとしても、炭鉱責任者と医師先生と看護婦と元髭もじゃ位ではなかろうか。
看護婦はさっきまで知らなかったので、このレベルで知らない人間がいるなら緘口令は行き渡っていたのだと信じれる。
「そうですね~。後は炭鉱責任者位じゃないですか?」
「それなら、尚の事、俺の事は少年のままでいいさ。」
医師先生がいきなり俺に対してペコペコ頭をさげたり、敬語で話しているのをみたら、間違いなく他の労働者は不審に思うであろう。下手をすれば、俺が領地の跡取りというのがばれ、家に対して振りな事になっても困る。
「かしこまりました。」
いや、だからその仰々しさを何とかしようよ。
「これから先は貴族として振る舞わなきゃいけないから、炭鉱では気楽にしたいんだ。」
10才から連れて来られて、早5年。なんだかんだで炭鉱夫達に可愛がられてきた。これが『貴族です。改めてよろしくね。』って言ったところで、皆が戸惑うだけで、せっかく作り上げた環境が粉々に粉砕されるのは願い下げだ。
「はっはっは。分かったよ少年。しかし、君が『月の滴』を発掘したのは鉱山中に広まってしまった事実ですよ。借金返済した鉱山奴隷が名前を取り戻すのは普通の事。それがない方が不審がられますよ。」
言われる事はもっともだ。働く奴隷達は自分の借金を返し、自分を取り戻すために日々働いているのだ。返済した瞬間から自分の名前を大声で叫ぶ者も珍しくない。
「そしたら、ダーシャで頼むよ。」
かつて、家族達に呼ばれ続けた僕の愛称。まったくの偽名というわけでもなく、かといって正体がばれるわけでもなくちょうど良い。
「小さい頃は、その名前で家族に呼ばれていたから、ここの皆に呼ばれるなら、そっちの名前がいいや。」
久しぶりの土日を、爆睡して過ごすという・・・。
さっそく今日から締め切り地獄だ~♪




