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月の滴  作者: あれっきーの
炭鉱奴隷への転落
24/136

024 適合者 その1




 バディと戯れていると、ノックの音が響いた。


「開いてますよ。」


 ノックに応えると、ドアの向こうから医師先生ヴラーチ看護婦(ミエトスィストラー)が入ってきた。


「朝食をお持ちしました。」


 トレイで運ばれてきたのは オートミルとアンチョビにリンゴだった。リンゴの皮は切込み細工が施され、ウサギの耳がピンと尖っていた。


「ウサギを喜ぶ年ではないのですが。」


「ウサギで喜んでるように見えますよ。」


 看護婦(ミエトスィストラー)と見つめ合うと、お互いクスリと笑った。このウサギは曰くつきだ。炭鉱に連れられて不覚にも物陰で涙していたときに看護婦(ミエトスィストラー)に見つかり、その時にこれを出してもらった。以来看護婦(ミエトスィストラー)は、何かにつけてリンゴにはウサギ耳の切込みを入れるようになった。


「あの時の少年が、もう旅立たっちゃうのね。」


 その横顔は少し寂しそうである。いつも支えてくれた女性に僕は何もお返しができていない。


「もうちょっと療養しなきゃいけないので、1週間は足止めみたいですよ。」


「じゃぁ、しっかりと看病しますね。」


 看護婦(ミエトスィストラー)には頭があがらない。幸いベットに座って作業はできそうだし、久しぶりに木でも削って何か作ってプレゼントしよう。

 運んでもらった朝食を綺麗に食べあげると、昨日の昼から何も食べていなかったことを思い出した。


「昨日ももってきたのに、少年は寝てたからもって帰って私のご飯にしました。」


 それは申しわけないことをした。しかし、眠りに抗えなかったのは仕方がないので許してほしい。

 謝罪する僕に、「うそうそ。」と笑いながら続けた。


「本当はバディちゃんとご飯を半分こにしました。少年がいつもバディちゃんと半分にしてるのは知ってたからね。」


 笑顔のカウンターパンチに、この女性には敵わないやと両手をあげた。


「そうだ。昨日名前を返してもらえました。改めて自己紹介をしてもいいでしょうか。」

 炭鉱奴隷として名前を奪われていたので、昨日まで自分の名前を思い出せなかった。元髭もじゃ(ユーリー)が解放を宣言してくれたので、自分の名前を思い出せたのだ。


「そうなの!? おめでとう。 じゃぁ教えてもらうわ。」


 その様子を医師先生ヴラーチはニヤニヤ笑って見ている。


「改めまして、僕の名は『ダーリヤ・ダニイル・グリエフ』です。 この地を治める領主『ダニイル・アルカージエヴィチ・グリエフ』の子です。」


 看護婦(ミエトスィストラー)は飲んでたお茶を盛大に吹いた。そのままゴホゴホと気管に入った水分と格闘している。医師先生ヴラーチは大爆笑している。床に転がり手足をバタバタ動かして、看護婦(ミエトスィストラー)の反応がツボに入ったようだ。


 バディは、濡れた毛皮を逆立て、ブルブルと振るうと僕の横に座り、みんなの様子を覗っている。


「ちょ・・・ちょっとまって!? 少年が、貴族様!? それもこの領地の跡取り!?」


 かなり慌てている。今まで一度もいったことはなかったから仕方がないだろうが、そんなに慌てなくてもいいのではないだろうか。


「うん。そうだよ。髭もじゃ(ユーリー)辺りは知ってる話だけど、さすがに看護婦(ミエトスィストラー)までは伝えられてなかったかな。」


「全くももって初耳だよ・・です。それならそうと早く教えてくれてもよかったのに・・じゃないですか。」


 うん、しゃべり方がおかしくなってる。


「話し方は今まで通りで良いよ。よそよそしくされると少し寂しいから。」


 看護婦(ミエトスィストラー)が既を使わずに済むように何時も通りの話し方を促す。相棒(バディ)も後押しするように相棒(バディ)も『わふ』と鳴いた。


「そう言うことなら、今まで通りでいかせてもらうね。」


 色々飲み込んでくれた彼女に感謝した。

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