020 1本のツルハシ
「坊主、お前はこれを使え。」
現場監督らしい、髭もじゃのおっさんが1本のツルハシをくれた。
「生憎と、うちの現場にゃ子供サイズってのがこれしかないからな。大事に使えよ。」
髭もじゃの顔はなんだか嬉しそうだ。きっと子供が好きなのだろう。そう思いながらもらったツルハシを見ると、そこには見慣れた仕事がしてあった。
「えっ、髭もじゃ! このツルハシって!?」
ツルハシに刻まれた刻印は、良く知る人物達が贋作除けの意味も込めて付けている特殊なものだ。1刻み金貨3枚は下らないという、決してツルハシに刻むようなものではない。
「誰が髭もじゃだ!?」
文句を言いながらも、僕の反応をみて満足したようだ。ニヤリとした笑顔は、黒ずんだ肌とマッチし、どこから見ても獲物を見つけた瞬間の山賊に見える。
「笑い顔が怖いって言われませんか?」
ガッハッハと笑いながら続ける。
「ゴルビーに頼まれたんだよ。お前の事をよろしくってな。あいつに認められた奴がこんな所に来た理由は知らねえが、あいつの頼みだ。何かあったら言ってきな。俺の名前はユーリーってんだ。よろしくな。」
これが、僕と髭もじゃの出会いだった。
「名前とのギャップがすごいですね。」
しまった、思ったまま口に出してしまった。
「口の減らねぇ坊主だな。」
僕の頭をぐりぐり撫でると髭もじゃは着いて来いと僕を連れまわした。
「野郎ども! 良く聞け!!」
広場に連れてこられた僕は、全員の目にさらされる事になった。
「この坊主は、鉱山奴隷としてここに連れてこられた! しかし! お前らも普段世話になってる、ゴルビーが目にかけてる坊主でもある! 下手な事したら何があっても俺は知らないからそのつもりでな! やるなら、タマつぶされる覚悟は済ませておけよ!」
「おう!まかせろ!!」
広場でくつろいでいた男達は「乾杯!」と酒瓶を片手に掲げ僕を歓迎してくれた。
「それとだ、そこに居るオオカミだが、この坊主の相棒だ。つまみ代わり食おうとしたら、オオカミの飯になるだろうから気をつけろ。」
相棒の事まできちんと紹介し、髭もじゃは僕の部屋に案内してくれた。
「坊主、お前さんがここに来たいきさつは、ゴルビーに大体聞いた。自分の身の保身を考えず行動した子供は馬鹿だとさえ思った。しかし、あいつ・・・いやあいつらは、お前に感謝していた。普通の奴にはできないすげえ奴だって言ってた。」
あいつらというのが、鍛冶屋の親父と木工屋の親方と言うのは容易に想像できた。
故郷の事を思い出した僕の目には、枯らしたはずの涙が浮かんできた。
「鉱山奴隷としてここに来たお前は、知っての通り名前を奪われた。取り戻すためには規定年数働くか、希少金属を見つけて特別手当をもらって期間を減らすかのどちらかしかない。坊主、まずは規定年数働く事を念頭にやれ。無理して体を壊したら元も子もないからな。」
また、頭をわしゃわしゃ撫でると、食堂など施設の案内をしながら、いろんな人に僕を紹介してくれた。
こうして僕の1日が終わった。ベットの上で相棒を抱きしめ、親方達のプレゼントを見ながら、僕は夢の世界に落ちていった。
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