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月の滴  作者: あれっきーの
これからの事
134/136

134 人間の欲望

 母上に断りを入れて、相棒(バディ)と一緒に工房に向かう。相変わらず離れる時に相棒(バディ)とのお別れ儀式が発生するのは言うまでも無い。


 工房に着くまでの間、最近身の回りに起きた事を思い返していた。俺の周りには本当に自分の欲望に忠実な人が多い。ふと、昔聞いた言葉を思い出した。


 『依頼人(クライアント)にどんな想いが有ろうと、作製依頼は物作りであり要求レベル以上の物を渡せば職人は腕が上がり、依頼人(クライアント)は報酬を払う。俺たちはその金で(スピリタス)を飲むだけだ。ただし、どれだけ報酬が良いからって人殺しの道具は作らねぇ。後で飲む酒が不味くなるからな。』


 まだ幼い頃木工屋の親方(ザンギエフ)が俺に言っていた名言だ。当時の俺は幼く、木工屋の親方(ザンギエフ)が何を言っているか理解できなかった。けれど今ならわかる。依頼人(母上やマーシャ)にどんな想い(明らかに相棒(バディ)に対する下心)が有ろうと、俺に出された依頼は俺自身のスキルアップにつながり、また報酬(旅に出る許可)がもらえる。そう、この依頼(無理難題)は、相棒(バディ)との約束を果たす最初の難関なのだ。


 自分にそう言い聞かせその場を後にした。当然相棒(バディ)も付いて来る。


「何か問題が有ったのか?」


 顔に触ると口角が上がりいわゆる笑顔の状態だ。。普通なら良い事が有ったのかと聞くところだろう。しかし、長い事共に過ごした相棒(バディ)の目はごまかせないようだ。鉱山では陰険な顔をすると回りから追い討ちを掛けられるので、どんなに辛くても顔に出す表情は笑顔になったのだ。


 それはさて置き、確かに今は色々考えさせられる事がある。炭鉱奴隷として働いている間に激しくなった母上の病気(重度愛情表現)。ソレを諌めようとせず自分の欲求(にくゅうとのふれあい)を満たすマーシャ。職人達が己の技術の粋を集めて欲しがる報酬(母上に対するアピール)。知識欲を満たすために人生を犠牲にした暴走家庭教師(フォリシア)


 このそれぞれが持つ欲望は、元キゼルの代官ブラト・レフ・ストリギン欲求(下克上)と根底は変わらないのかも知れない。問題はその方向性が何処に向かい、ソレが何の役に立つのかが大事なんだろう。


 あの時元キゼルの代官ブラト・レフ・ストリギンが民草の事を考えた上での下克上であれば、住民の支持を受けて立派に街を治めれたかもしれない。民衆も己の欲望(圧政の無い自由な生活)を満たしてくれる者がトップである事を期待している。


 人は多かれ少なかれ欲望を持っている。ソレを回りに表現するか否か、表現する場合は何処まで表現するかで回りからの目が変わってくる。


 いずれは領主としてこの地を治める立場にある。ならば民衆に受け入れられる気持ちのいい統治をしよう。『全員が幸せになる』が俺の欲望なのかもしれない。その為にも、まずは相棒(バディ)欲望(仲間を月に戻す事)を達成しよう。


「いや、問題じゃないよ。むしろ回りに気づかされて感謝してるところさ。実は……。」


 己の目標を定めた事で、作り笑いは本当の笑顔になった。相棒(バディ)はそれを見て、理解者の目で優しく俺を見ている。俺は最近感じた事、それに対してどうしたいかを相棒(バディ)に話しながら工房に続く道を歩くのだった。途中相棒(バディ)から突っ込みを受け、欲望に対する意見交換を工房に着くまで交わすのだった。



◇◆◇◆◇◆◇


 2人(俺とバディ)でわいわい盛り上がりながら工房の扉を開ける。


 するとどうでしょう。扉を潜るとそこは別世界になっているではないですか。今朝見た5年間掃除された事の無かった埃塗れの室内が、巨匠(ハウスキーパー達)の手に掛かり、塵一つないピカピカの空間に変わっています。


 なんという事でしょう。短く溶けた蝋燭で固まりくすんでいた燭台は、丁寧に湯煎されこびりついていた蝋カスが全て除去されています。また、綺麗に磨かれた事で、蝋燭の明かりを受け銀色に輝いています。


 木の削りカスと埃塗れになっていた彫刻刀は、磨り減っていた刃先を1本1本丁寧に砥ぎ直し、木目に逆らっても思い通りに線を掘り込める鋭さを主張しています。巨匠(ハウスキーパー達)からのメッセージでしょうか、木工屋の親方(ザンギエフ)に頼らず自分で頑張るようにと言われているような気がします。


 となると当然金属細工用スペースも気になります。こちらも綺麗に吹上げられ、各種金属をそれぞれケースに元素番号順に分類し丁寧に並べられています。加熱用魔道具(バーナー)は左手に、細工用工具は右手にそれぞれ新設された棚に取り出しやすく収納されています。これも巨匠(ハウスキーパー達)の作業しやすいようにとの気遣いでしょう。


「ま、まさか、ここまでとは思わなかった。」


「どうした? 相棒(ダーシャ)


 固まるダーシャにバディが寄り添います。依頼人(ダーシャ)の視線の先にはデスクがあります。5年の間デスクの上に乱雑に広げらていた様々な設計図(過去の作品)は、成功した作品と失敗作を分別したうえでバインダーに綴られています。


 ダーシャの視線は開かれたバインダーに釘付けです。


 成功した作品のバインダーはデスク脇のガラス戸タイプのキャビネットに収納されています。失敗した物に関しては赤ペンで添削され、何が悪かったかを丁寧に解説し鉛筆印のシールを張っています。


「う……うちに、赤ペン先生が居たなんて想像した事も無かったよ。」


◇◆◇◆◇◆◇


多少やりすぎた感は否めません

反省はしていますが、後悔はしていません(キリッ

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