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月の滴  作者: あれっきーの
これからの事
124/136

124 親の欲目



「利発なご子息ですね。」


「うん。僕には出来すぎた息子だよ。」


 ダーシャの立ち去った部屋に残された2人は、目の前の紅茶を微笑みながら飲んでいた。白磁のカップに添えられたブルーべりージャムが紅茶と並ぶと、青・白・赤の綺麗なコントラストを見せる。


「本当に私なんかが家庭教師でいいのでしょうか? これまでずっと王国図書館で司書をしていたんですよ。」


 不安そうな表情で尋ねる新米家庭教師(フォーリシア)。それもそのはず先日まで王国図書館で働いていたが、有力貴族に目をつけられ首になった経歴がある。その理由は彼女のプライベートな部分に係わる事だが他人に迷惑をかけたわけではない。むしろ、その他の追随を許さぬ知的好奇心が暴走した結果である。


 しかし目の前の雇い主(ダニイル卿)は微笑んだまま答えた。


「確かに職歴を見ればまったく関係ないと言われるかも知れない。しかし、貴女のプライベートでの経歴を見れば、実に様々な分野を独学で探求されている。この知識の全ては無理でしょうが、ダーシャに必要な分だけでも教えていただけると助かります。」


 そういうと、テーブルの上に突っ伏すように頭を下げた。新米家庭教師(フォーリシア)はその行動に一瞬頭が真っ白になった。まさかこの一帯を治める領主(ダニイル卿)が自分に頭を下げるなんて思っても見なかった。


「ダ、ダニイル卿。こ、困ります。頭を上げてください。」


 意識を取り戻すと、頭を垂れたままの雇い主(ダニイル卿)に慌てて姿勢を正してもらう。


「いやぁ、息子(ダーシャ)の恩師になる人です。僕が頭を下げるくらい安いものですよ。」


 そう言いハッハッハと笑う。こんな開けっぴろげな性格だからこそ、領民の事を考えた統治が出来ているのだろう。実際に王都の民と比較して、領主の街(チェルノ)の領民の方が活き活きとした顔をしている。


「それにしても、ダーシャ君が言ってた『魔素水(アクア・ウェタイ)』って、あの『命の水(アクア・ウェタイ)』の事ですよね? そんな高価な物を昔からお与えになっていたのですか?」


 受け持つ生徒の金銭感覚等、一般常識の授業内容を考えると少し頭が痛くなる。『命の水(アクア・ウェタイ)』は中世の錬金術師が究極の目的として製作を目指した『賢者の石』のことである。当時完成できなかったが、今この時代に作成できるのは魔素のおかげである。故に『命の水(アクア・ウェタイ)』から『魔素水(アクア・ウェタイ)』へと呼び名が変わってしまった。


 作り方は至ってシンプルだ。ガラス瓶に『月の滴』を一欠けら入れ、そこに蒸留水を流し込む。すると中にある『月の滴』が溶け出し粘土の高い液体へと変化する。この変化したものが『魔素水(アクア・ウェタイ)』である。


「ダーシャはあの年で、王国で指折りの刻印技師だよ。まぁ、成果物の発表が出来ていないから知る人ぞ知るって奴だけどね。親の欲目が有るかも知れないのは否定できないけどね。良かったら見せて貰うといいよ。何事も自分の目で見るのが一番信用できるからね。」


 そう言いながら空になったカップを置く。後ろに控えていた執事(カイゼル)は当然の様に紅茶のお代わりをカップに注ぐ。


「カイゼル、こちらのお嬢さんをダーシャの工房にご案内してもらえないだろうか。」


「はい。かしこまりました。」


 主の言葉に即答すると、新米家庭教師(フォーリシア)立つよう促(エスコート)し、ダーシャの工房に案内するのだった。



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