120 課題提出
親方の号令の下、全ての徒弟さんが集まり、図面を確認し、材料を厳選しパーツを組み上げる。その一つ一つに緻密なデザインを掘り込み工房の質の高さをうかがわせる。
何が怖いかって、設計図を1度見ただけで、一言も発せずに作業が開始されたことだろう。さらに、なぜか鍛冶屋の親父さんまで登場し、設計図に勝手に書き足ししていた。書き足しが完了すると、また全員が設計図を無言で見て、自分の仕事に戻っていった。
そして3時間後、予想以上の物が完成していた。俺の設計上に存在しなかった植物の装飾は掘り込まれているだけでなく、立体的に削りだされているものまである。本当に高度な細工技術をこんな所でかつ最短時間で披露するこの工房のそこ時からを垣間見た。
「ナターシャ様には、ウチで作ったって言わないでくれよ。」
髭面の顔を赤くして、照れた様子で完成品を手渡された。うん、俺はココで作ったって言わないよ。そもそも言う必要が無いよね。だって、側面にザンギエフ工房作ってでかでかと掘り込んで、金細工で装飾してるんだから。もちろんその横には『貴方の鍛冶屋ゴルビー』と微に細な家紋まで掘り込んでいる。馬鹿なおっさん達の本気を甘く見ていたようだ。
目的以上の物が出来たので上機嫌で領主邸に帰る。帰る直前に親方に渡され、専用ケースがあることにさらに驚いたのは言うまでも無いな。
家に帰ると、昨日と同じように中庭の木の下で、相棒を囲む女性陣の姿が見えた。早速そこに完成したての課題を持ってはいる。
「ただいま。」
「あら、ダーシャちゃんお帰りなさい。」
相棒の毛を梳きながら俺の手元に興味を示す。
「それは何かしら?」
既に答えは判ってるって顔をしているが、念のための確認といった所だろうか。ケースから中身を取り出しお披露目をした。
「母上からの課題ですよ。相棒とお話できる為の道具です。」
木工・鍛冶職人達の施した意匠により、俺が作る目的以上に豪華に見えるそれに、母上は目を輝かせた。
「すごいわダーシャちゃん。まさか、昨日の今日で完成するなんて思ってもみなかったわ。早速使い方を教えてくれるかしら。」
母上同様、すごい剣幕でこっちを見ているマーシャもいる。よし、ここは相棒にも協力してもらってあっさり課題をクリアしよう。
「もちろんです。まずこれは、見ての通り33個のキリル文字と日常会話に使いそうな単語を書いています。つまり、相棒がこの文字を指すことで、何を欲しているかがわかるのです。」
2人は真剣な顔で頷いている。これはいけるな。
「例えば、相棒のお腹が空いているとき、この『ごはん』の文字を指差すのです。」
「なにそれ、可愛い。お腹空いたバディちゃんが、このお洒落なケースを咥えてきて私の足元に置くでしょ。私が其れを開いてあげると、おずおずと『ごはん』にポンと前足を置くのね。さらに、会話の時にはその前足がポンポンポンと動くのよ。さすがバディちゃん、癒し系ね。」
母上の頭の中で既にこれを使用しているみたいだ。では早速使ってみよう。




