116 まどろみの前に
「そうか、だから『眷属を月に帰す手伝い』なんだな。」
確かあの時相棒は俺にそういった。
「ああ、そうだ。」
「しかし、相棒は帰らなくてもいいのかい?」
「ああ、私は自分の意思で戻ろうと思えば戻れる。」
「そうなのか?」
「こんなことで嘘はつかないよ。しかし、全ての眷属がそうではない。」
ご先祖様が戦いの為に相棒を召還したときに、なぜか付いてきた大量の眷属。相棒にしてみれば大事な仲間だ。きっとこの数百年悔やんでいたんだろう。
「なんか、ごめんな。俺のご先祖さまがやらかしたばっかりに。」
「いや、そこは謝る場所じゃない。」
「私は、地球に降りてきて良かったと思っている。私はここが好きだからな。」
俺を慰めるために言わせてるみたいで本当に申し訳ない。相棒正直に言っていいんだぞ。
「そんな疑いの眼差しでみるな。そもそも私は、神話の時代から月と地球を行ったり着たりしているんだぞ。」
ちょっとまて、今なんて言った? 神話の時代・・・?
「過去の書物を紐解けば、私の活躍が見つかるかも知れないぞ。」
俺の変わった顔色をみて笑いながら畳み掛けてくる。
「それに、眷属も全てが月に帰りたがっているわけではない。有機体と同化し、新しい生命となし得た者もいる。だから、残りの者をつれて帰るだけだ。」
「そっか。」
「ああ、そうだ。」
うん、正直よくわからない。きっと保護者の気分で巣立ったものは放っておいて、希望者だけ連れて帰る引率の気分なんだろうか?
「亜奴らは、かなり待たせてしまったからなるべく早く帰してやりたい。」
しかし、その目は真剣だ。やはり自分に引きづられてつれてきたことを悔やんでいるんでいる。間違いない。俺も炭鉱に相棒を連れて行ってる間、早くつれて帰りたいと思い続けていたからな。
「と言うことは、少しでも早く旅に出なきゃいけないな。」
旅支度は大体済んでいる。足りないものは薬箱と当座の食料位なものだ。
「しかし、準備ができていない状態では心持たない。相棒はしっかりと父上と母上の課題をこなしてくれ。」
課題が終わるまでが準備か……。しかし、俺の中では難関な方は既に方が付いている。
「判ったよ。というか、母上の課題はもうほぼ完成しているんだ。」
「なんと!?」
さすがに相棒が素っ頓狂な声を上げる。うん。この声が聞きたかった。
「後はこれを親方達に作ってもらえば完成だよ。」
先ほど書いた紙を見せる。
「それは大したものだ。その調子で父上の課題も期待してるぞ。」
「ああ、最短ルートでこなして見せるよ。」
父上の課題は、それこそ旅に必要なものだ。地域性や風土の理解、戦い方、其れを持たない冒険者は生きていけない。幸い体作りは5年かけてみっちりできている。後は技術を身につけるだけだ。
「そろそろ寝たほうがいいんじゃないか?」
相棒に促され、明日からのハードな準備を想定し、俺は布団に入った。
「うん。お休み。」
サイドデスクの明かりを消して枕に頭を沈める。
「お休み。」
枕に顔をうずめてカーテンを閉め忘れたことに気がつく。明かりの消えた部屋に、月の光が窓から差し込んでいる。その光に誘われて月を眺める相棒の顔は少しすっきりしているように見えた。




