109 止まる時間
お待たせしました。
体調復帰です。
カップになみなみ注がれた緑色の液体をようやく飲みきると、屋敷のほうから父上が歩いてきた。
「やぁ、みんな。楽しんでいるかい?」
「ええ、ダニイル。素敵な日本の文化を肌で体験しているのよ。素敵でしょ。」
「もちろん素敵だよ、ナターシャ。」
「さて、僕はダーシャを探してきたんだが、このまま連れて行くと『独り占めした』と怒られそうだね。」
連れて行くという発言で、母とマーシャの目つきが一瞬変わった。
「あっはっは、怖い怖い。じゃぁ、ココで話そうかね。」
そう言うと、俺に向かって真面目な顔をしたので、俺も真面目な顔で父上を見る。
「ダーシャに話さなきゃいけないことは2つ。悪代官の件は正式に国が認めたよ。ストリギン男爵からも息子の件であらかじめ話を通しておいてくれたみたいで、ダーシャの経歴から汚点は綺麗さっぱり無くなったよ。まぁ、貴族として陥れられたということで今後侮られることはあるかもしれないけど、身をもって領民を守ったという美談もできてるので五分五分って所かな。」
確かに騙されていたとしても、あの時はそれを証明する手段も無かったし、ああする以外に俺にできることは無かった。良くも悪くも俺に対する評価だ。謹んで受け取ろう。
「そして次に、これから先のダーシャの生活をどうするかだよ。5年間の遅れを取り戻すために寄宿制の学園に行くか、それとも家庭教師を雇うかだけど。家庭教師を雇う方向で考えている。それについて何か依存は有るかい?」
『有る』といってもきっと認められそうに無い雰囲気だ。マーシャは不安な顔をして俺の顔を見ている。
「これは予想なんですが、家庭教師というのはサヤーニャの事でしょうか?」
刻印士としての腕、Sランク冒険者という武力と行動力。今後の旅について来てもらえるとすごい心強い人物ではある。
サヤーニャの名前を出すと、マーシャは少しほっぺたを膨らませた。しかし、昨夜彼女に伝えた冒険談で、彼女が居なければ俺が死んでいたと言う所を加味して異論を口に挟んではいない。
「うん、1人はその通りだよ。ダーシャにはこのまま刻印士としての能力を高めて欲しいからね。ただ、それ以外の一般教養や、この国の情勢、税の処理なども覚えてもらいたいんだ。なので、彼女以外にも何人かその分野の先生をお願いするつもりだ。」
「そこについてなんですが、1つお願いがあります。」
「うん? 何だい?」
「バディと約束をしたので、5年間時間をください。」
軽く言った俺の言葉の所為で、その場に居た全員の時が止まってしまった。ただ相棒だけは、そんな空気を気にせずに黒いスコーンをかじっていた。




