107 心地よい気だるさ
カーテンからこぼれる日の光と、外で囀る鳥の声で目をさました。
いつの間にベットで横になったか。一瞬自分の居場所がわららず、懸命に昨夜の記憶を呼び起こす。
昨夜はあれから大変だった。親方達を始め、工房のお弟子さんが酒をもって寄ってきた。それを取り巻くように、商店のおっさん、おばさんが握手を求めてやってきて、最後には小さな子供達に「おかえりなさい。大変だったね」と頭を撫でられた。
それを見た親方達は大笑いしながら酒を飲み、追加された料理を啄ばんだ。
酒宴用料理のメインは、鳥や獣を塩コショウだけで味付けして、炭火で焼いた肉だった。大勢の人間がそれぞれのペースで食べれるよう、交代で火の番をし、焼きながら飲んでいた。
飲みながらみんなと沢山話した。親方達に炭鉱で助けてくれた元髭もじゃの事を聞くと、やはり親方の関係者だったと答えてくれた。貰った特製ツルハシの話をすれば「見たいと」騒ぐお弟子さんの為にツルハシを取りに部屋に戻った。部屋に戻ると「置いていかれた」と怒るマーシャを宥めて、手をつないで庭園にもどったりと、一時が万事騒がしい事この上無かった。
しかし、その騒ぎは非常に心地よい騒ぎだった。夕飯時の炭鉱も工夫達が酒を飲みその日の仕事について好き好きに騒いでいたが、それとは一味違う家族を出迎える暖かい騒ぎだった。勧められるままに飲んだ酒は思考力を低下させ、低下した思考力ではお代わりを断ることもせず酒を飲んだ。記憶があるのはそこまでだ。どうやってベットに横になったかも覚えていない。そしてその結果が今の状態である。自分では理解できないが、きっと部屋中が酒臭くなって窓を開けられたのだろう。
―とても気だるい―
今の気持ちを一言で表すとこれに尽きる。寝転んだまま背伸びをして部屋を見回す。あのドアから毎朝マーシャが俺を起こしに来ていた。ソファーの上は相棒のお気に入りの場所だ。収納机は夜更かししてそのまま寝ることが多かった所為で、何度も蝶番を駄目にし。そして今寝転がっているベットは、子供の頃からの愛用のベットだ。あの頃も気だるい朝には、今と同じように風になびくカーテン越しに見える空を眺めていた。聞こえてくる鳥の囀りもあの頃と何一つ変わっていない。
幸い二日酔いにはなっていない。日の角度から考えるとそろそろお昼時だ。倦怠感を振りほどくように、大きく背伸びをしてベットから飛び起きた。鳥の声に誘われて窓辺に良くと外を見ると大きな木の下で相棒達の姿が見えた。母上に櫛で梳かれ、マーシャに肉球を弄ばれている。それにされるがまま横にり、昨夜の残りの肉を頬張っている。
太陽は心地よく彼女達を照らすが、草を揺らす風は多少の肌寒さを感じさせる。さてさて、執事に頼んで紅茶を用意してもらって迎えに行きましょうかね。




