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第1話 委員長の憂鬱

短期連載になります。

最後まで読んでいただければ幸いです。

 

 

 こんなセイカツが、アタリマエになっていた。


 

 七校時終了の鐘の音が、教室を揺らす。

 黒板の前に立つ先生の手が止まって、その目があたしを見た。

 アイコンタクト。終了の、合図。


「起立」


 つかえることなく、慣れたセリフが口をついて出た。

 あたしの声で一斉に立ち上がる制服の群れ、クラスメイト。

 その中でも、ひときわ目を引くあの背中。

 ヤツの背中目がけて、声を発した。


「礼」


 頭を下げたのか下げないのか、確認するまもなくざわめき立つ教室。

 これからホームルームがあるというのに、今や教室の雰囲気は校外に向かっている。

 

 委員長なんて、ホントに楽じゃない。

 号令なんて日課。

 浮き足立った思春期という青春を謳歌しているワカモノたちを静めるのも、役目。

 毎日のアタリマエなこと。

 タイミングも距離のとり方もなんとなくわかってしまうのだから、慣れとは恐ろしい。


「起立」


 教科担任と入れ違いに入ってきたクラス担任の姿を見て、本日何度目になるか分からない号令をかける。

 あたしという名の、鶴の一声でクラスに多少の沈黙がもたらされて、そして放課後へ。

 ホームルームをあっさりと終えて、また号令で今日が終わる。

 まるで自分が時報ように思えてしまう。


「いいんちょー、じゃね!」

「また明日」


 アタリマエのようにあたしのアダ名は委員長だった。

 昔からそうだったし、自分でもクラス委員という役柄は合っていると思う。


 つねに冷静であれ。

 公平に、平等に。

 人をまとめるのは大変だけれど、クラスの協力があれば何とかなるものだ。


 しかし。

 唯一の例外が、ただひとり。


「ゆーい! ゆいゆい」


 あたしを乱す、バカみたいな声。

 狭い教室を走り寄ってくるヤツだけはどうしても。


「うっさい! このバカ」

「結依は俺にだけ冷たいよなー。あ、わかった」


 腕を組んで、仁王立ちをして。

 対ヤツの攻撃に備える。


「……なによ」


 あたしがあたしでなくなる原因。

 困り果てた男。

 バカのバカみたいな、声。


「はずかしーんだろ。まったくよー、かわいい幼なじみだぜ」


 そして、あたしの沸点はヤツの発言でピークへ達する。


「ば、っかじゃないの!?」


 冷静なあたしはどこへやら。

 幼なじみの彼のせいで、あたしはいつものようにあたしではなくなってしまうのだった。




 

 

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