掃除の呪文は使えない
“在るべきところに還るが良い!”
という掃除の呪文を手に入れた。
いや、教えてもらった。
なんだか物々しくも大層な言い回しの呪文だが、使用用途は、本当に単純に掃除である。
世界規模とか伝説規模とか全く関係が無い。
個人レベルの話だ。
ごめん、小規模で。
ごめん。掃除機使ったり雑巾使ったりする、整理整頓の話で。
それはさておき、喜んだ私は、
出先から自分の散らかった部屋に戻ると、早速、期待を込めて使ってみた。
「ふっ・・・“在るべきところに還れ~”」
ピローン♪
頭の中に注釈が閃いた。
“使用方法のご連絡”
「・・・ん」
頭の中に、可愛い妖精が現れた。
ステッキの代わりにポインターを持って、図解している。
“使用前に準備が必要になります。
まず、使いたいものを『在るべき』場所に収め、次の呪文で『在るべき』場所を記憶させます。”
「・・・ん?」
“呪文:『在るべき、在るべき』 注意:満足げに言うこと ”
あれ、なんか爺さんくさいな、こっちの呪文。
“このように『在るべき』場所を記憶させた後にご使用ください”
「・・・」
ピローン♪
と、再び可愛い音を残して頭の中の妖精と図解は消えていった。
「・・・・・・」
つまり、まず自力で片付けてから、それを記憶させる呪文を唱えろと。
その後に『在るべきところに還れ』と唱えると、散らかっていても、元に戻ると。
つ、使えねぇ!!!
自力で片付かないから散らかっているのに!!
いや、一度頑張って片付ければ良いのか?
『在るべき、在るべき』(※満足げに) を使っちゃえば後は良いのか!?
だがしかし!
部屋の中のものは、それなりに変化するのである。
捨てるものもあれば、入るものもあるわけで。
「・・・・・・・」
というかすでに一番初めの『まず自力で』がクリアできそうにない。
私はちょっと遠い目をした。
あぁ、この呪文、覚えておいても絶対使わないなぁ・・・。
使わないものは、捨てましょう。
私はさっくり、呪文を忘れる事にした。
― おしまい ―