君の夢を見る
――そんな苦しそうな笑顔しないで……――
夢の中で,冬夜はあのときの顔をしていた.
青は胸が締め付けられるような思いを感じながら,目を覚ました.
***
冬夜の家に集まった日,夜9時をまわって一旦休憩しようということになり,4人で飲み物片手にしゃべっていた.
「そういえば,もうすぐ北高との生徒会研修だよな」光貴が切り出す.
「生徒会研修……?」
「そっか,青は今回が初めてだよね.」
涼風が青に説明する.
「南高と北高って,10月に両方の生徒会が集まって研修会みたいなのするの.合宿所みたいなところに集まって,お互いの情報交換したり,運営の話したり.といっても,半分親睦会みたいなものだけど.南高と北高ってけっこうお互い行き来あるんだよね」
「そうなんだ」
青は他の3人より1年遅れて生徒会に入ったため,まだ初めて参加する行事も多い.北高のメンバーが去年からの人たちなのかどうかは分からないが,おそらく去年から出来上がっているだろう空気の中に自分が溶け込めるか,若干不安ではあった.
そんなことを考えていると,
「確かあっちも書記だけ今年変わったんじゃなかったか?」
冬夜が,「そういえば」という感じで言った.
一瞬,不安が顔に出てしまっていたかと思うほど丁度のタイミングだったので,青は思わず,思いっきり冬夜の顔を見てしまった.だが,冬夜は誰を見るともなしに話を続ける.
「そろそろ計画立て始めないとだな.来週あたり連絡とろう.」
青が自分でもわからない不思議な気持ちで冬夜を見つめていると,玄関のチャイムがなった.夜も遅く周りも静かになった頃だったので,驚く.鳴り終わってもチャイムの音がなぜか耳に残った.
「え,こんな時間に……?」
涼風が驚いていると,鍵の開く音がした.
「……いや,父さんだ.」
涼風と光貴は,ああ,と納得していたが,さっきの話のときから冬夜を見ていた青には,その変化が見えた.
――チャイムがなった瞬間に,一瞬冬夜の肩が強張ったのが.
「なんでこんなタイミングで」と呟きながら冬夜が玄関へ出ていく.
その発言が,単に「よりにもよって人が来てるときに帰ってきて」という意味ではなかったのは,冬夜の声で,3人ともわかった.自分たちが今ここに「いてしまった」ことに,全員がいたたまれない気持ちになる.――おそらく,冬夜はこれからの自分の姿を3人に見られたくない.
***
さっきまで夢のなかで見ていた冬夜の顔を思い出しながら,青は自分の腕を見る.
あの夜帰りがけに掴まれた腕に,その熱がまだ残っている.