気づいてくれるのはいつも...2
――あいつなにやってんだ……?
議論が終わりに近づいた頃,ふと青のほうに目をやった冬夜は,青の様子がおかしいことに気づいた.
目はあからさまに泳いでいるし,不自然なほど資料を何度もめくっている.
まさか――原稿の続きがないのか.
昼休み全員で集まったとき,青も確認していたはずだ.ありえないとは思ったが,遠目にみる青の様子から,おそらくそのまさかの事態が起きていることが察せられた.そして,察したと同時に体は生徒会室に向かっていた.
議論は別で進んでいるのだからさりげなく立って取りにいけばいいものを,おそらくあいつはそれができないのだろう.たぶん,いや確実に,この真剣な議論のなか席を外すわけにはいかないとかなんとか考えている.青は,良くも悪くも真面目で,そしてその場の空気を壊さないように極端に気を使う.
「あいつは本当に……」
生徒会室へ急ぎながら,冬夜は心のなかで独り言ちた.
***
置かれた原稿と冬夜の姿に青が驚いていると,議論の後でざわついている雰囲気の中で冬夜が,次に言うべき言葉のところをトントンと指さした.その仕草ではっとし,慌ててマイクを取る.青が話し始めて周りが静かになったときには,冬夜はもう離れたところに立っていた.
その後総会は無事に進行し,青の「これで生徒総会を終了いたします.」という言葉で終了となった.その言葉を言い終わったとき,完全に固まっていた自分の身体から力が抜けていくのがわかった.手元にある,冬夜が持ってきてくれた原稿に目をやった.
――私は何をやってるんだろう.
不意に,消え入りたいくらいに情けない気持ちがどうしようもなくこみ上げてきて,青は皆が退出していく体育館の中で,一人立ち上がることも出来ずに堪えていた.泣く資格なんてないのに,資格がないのに泣くことが本当に嫌なのに,プリントに落ちた一滴に気づいてしまった瞬間,もう駄目だった.
自分の仕事も満足に出来ないのに「役に立ちたい」などと宣っていた自分を,ここに引きずり出してやりたい.あれしきのことで失敗してしまう自分に,一体何が出来るつもりでいたのか.
そのとき,ぽんと肩に手が載った.
手はすぐに離れて,上から「戻るぞ」という声が降ってきた.
気がつくと体育館にはもう冬夜と私の2人しか残っていなくて,冬夜はもう背を向けて歩き出していた.その背中に向かって声を出す.
「冬夜――,あ……」
ありがとうと言いたいのに,堪える涙のせいでうまく声が出ない.
「……ああ」
冬夜は,振り返ってそれだけ言うと,また歩き出した.