気づいてくれるのはいつも…
生徒総会当日.
5限目に行われる生徒総会の最終確認のため,青たち4人は生徒会室に集まっていた.
総会では,光貴を中心として議論が進められ,涼風が予算についての話し合いを受け持ち,青が司会をすることになっていた.そして冬夜は裏方だ.冬夜は人前に出る仕事をあまりやりたがらない.以前一度だけ,やむを得ない状況で引き受けたことがあったが,そのときは誰の目にも完璧な仕事ぶりだったので,不得手ということではないのだろう.
各人,全体の流れと自分の担当する部分の確認を,黙々と進める.
資料は,数日前に出来上がっていた.あの夜,青が一人でコピーと綴じ作業を終わらせようとしていた資料だ.あの日冬夜に言われてすぐに帰ることになったので,作業は終わっていなかった.次の日,プリントの山の横に,綴じ作業の終わった分の山ができているのを見て,光貴は苦笑しながら「ありがとな」と言い,涼風は青の頭をぽんと叩いた.――冬夜の言葉が正しかったことを,二人の表情が青に教えていた.
冬夜とはあれ以来ほとんど言葉を交わしていない.かろうじて交わした言葉も,挨拶以外はすべて事務連絡だ.もともと冬夜は自分から話すタイプではないし,それまでも2人の間に会話は多くなかったので特に変化はないはずだったが,それでも,自分たちの間に流れる一瞬一瞬の空気の何かが変わってしまったことに気づかずにはいられなかった.
***
光貴の挨拶で生徒総会が始まった.
ただ原稿を読んで司会をするだけなのに,会のたびにガチガチに緊張する.なんとか無事にプログラムの約半分を終え,今回の会の中心である予算の議論に入った.前で議論を進める涼風を見ながら,予定時間があと少しだなと手元の原稿に視線を移し――異変に気づいた.
――原稿の途中が抜けてる
予算の議論は終わりに近づいていた.
なんで.お昼に確認したときにはあったはず.どうしよう.今から取りに戻る?でもその間に今の議論が終わったら?いや,そもそもこの雰囲気の中で退室なんてできない……
焦れば焦るほど,思考は同じところをまわるばかりになり,それと同時に刻一刻と終わりが近づいてくる.思考が何周かした後,これまでに何度も確認したおかげである程度覚えている内容でどうにかなるかと覚悟を決めたとき,議論の終了を告げる涼風の声が聞こえた.
そして青がマイクを持ちかけたとき――机の上にプリントが置かれるのが目に入った.
これからの分の原稿と,そして冬夜の姿がそこにあった.