同じ穴にはいった兄弟
深い落とし穴にはまったことがある人は少なくはないはずですね
000
ある日。
昼休み。
僕は昼食をとるよりも前に七階に出向いた。
大きな窓が、外から光を集めて温かいのを通り越して若干暑かった。
七階は今日も心地よく暑かった。
穢れを知らない純白のタイルに生徒の気ツ後らしき汚れのあるコンクリートの壁。
暑さのせいもあり、ここには普段誰一人として生徒はいない。僕は壁を指の腹でなぞった。
そして、奥にある非常口に目をやった。
そこにいたのは海東啓だった。
「よお、何してるんだよこんな所で」
彼の事を友人だと僕は思っている。
「いや、ただ何となくね……」
何となくここに来るべきだと思って。
ただ何となく彼がいる気がした。
二人きりで話すのは久しぶりである様な気がした。
「そうか」
「ああ」
――僕は彼の方に近寄り、彼も僕の方に近づいた。
大きな窓の前で止まり、僕たちは窓に背を預け座った。
「あのさ、会ったよ、啓の言ってた僕を探してる人に」
「そうか……」
「うん」
「どうだった?」
「良く分からない」
「そうか……お前、変わったもんな――」
お互い向かいの壁を見詰めながら会話が続いた。
「啓は……どうだったんだ?」
「ははっ、まあ大したことは無いよ、お前もお前なりに苦労して、学んだんだろ? 俺も色々学んだよ……なんつーか、人生そんなに悪くないな」
と照れくさそうに海東啓は笑った。
「自分だけかと思って周りを見渡すと意外と同じ様な奴がいるんだな。特別と言う事はあり得ないんだな」
「……そうかもな」
「俺さ、……俺、頑張るから」
啓は言った。
「ああ」
一呼吸おいてから、啓の方に顔を向けて、僕は言った。別に言う必要は無いけれども、そのうち彼の耳にも入るから述べても差支えないだろう。
「啓、僕ね、彼女が出来たんだ」
それを聞いた啓は一瞬驚いたように僕の顔を覗き込んで、納得したように前を向いた。
「そうか、それじゃあ、一年の頃みたいに頻繁に遊べなくなるな」
「そうだね、多分」
「良い事だと思うぜ」
ありがとう。と、僕。
礼を言われるほどではない。と、海東啓。
僕たちの関係は友人である事は変わらない、けれども変わらないものなんて無い。
僕は彼と友人でいたいように、彼は僕と友人でいたいのだろうか。
変化する僕と、それを受け入れる親友。
変化する親友と、それを受け入れる僕。
親友。
「じゃあな、俺は先に行くけど、お前は少しここにいる方が良いと思うぞ」
「え?」
「いいから、少しここで待ってろよ」
「……ああ」
何の話か分からなかったが、ここは素直に従う事にしよう。
海東啓は立ちあがってそのまま階段を下って行った。
太陽光に背中をちりちりと焼かれて、階段の方を見ていると、海東啓と入れ替わりに相戸夕が階段を登ってきた。
相戸夕は手に何かをぶら下げて、僕に近づいてきた。
「あら、こんなところにいるなんてどうしたの?」
「いや、この場所が好きだからさ、夏みたいに凄く暑くなる前に来ておきたかったんだ」
夕は目の前で立ったまま僕を見ていた。
「そう」
と、相戸夕。
「そうだよ」
「一緒に食べましょう」
そう言って差し出されたのは四角い箱。
彼女の手作り弁当であった。
誰かの作ってくれた弁当は本当に久しぶりだな
「嬉しい、ありごとう」
と、僕。
「ありがとう」
言った後に夕は僕を見て照れくさそうに笑っていた。
ハイ