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僕がまだ小さかった頃、夏。
母が死んだ。
昔から体が弱かったと聞いている。
僕は夏が大好きだった。
夜の花火が好きだった。
家の庭先で大きな手から、目当ての花火を貰って、小さな僕の手を温かい手が優しく包み込み……火をともして、もらう。
「わぁ、きれい」
言いながら、ぱちぱちと光り弾け、消えゆく閃光の残像を眼が必死に追う。
両親は僕の後ろに立って僕を見ている。
「ねえ、お母さんもやろうよ」
僕は手に持っていた一つの花火を差し出す。
「いいの? 大好きなんでしょう、花火」
「うん。だって僕花火よりもお母さんの方が大大、大好きだもん」
「ありがとう」
そう言って母は僕から花火を貰うと、それに火をともして。
「きれいね」と何度も言う。
花火なんてそっちのけで僕の事ばかり見ているから、僕は、
「花火が消えちゃうからしっかり見なさい」と、言った。
その横で父が僕の分の花火は? と聞いて。残りの花火は剛がやるの、といって、父から頭をくちゃくちゃに撫でてもらった。
皆が笑っていて、花火はすぐに消えてしまうけれども、綺麗だった。
それが、母との夏の思い出であった。
最後の夏だった――。
ポニョ;崖の上