表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/27

13、君の幻想を使って Ⅳ


これにて ひと段落となります。


 ドン、ドドン、ドン、ドドン。ドン、ドドン、ドン、ドドン……。

 今までとは違う心地のいい響きであった。そして悪寒。

 浮かぶ月は闇にその身を喰われて、空は星も見えぬ暗黒で形成されていた。

 ドン、ドドン、ドン、ドドン。ドン、ドドン、ドン、ドドン。

 あの音が次第に大きくなって来る。

「フフフフフフフ」

 ドン、ドドン、ドン、ドドン。ドン、ドドン、ドン、ドドン……。

「ハハハハハハハ」

 ドン、ドドン、ドン、ドドン。ドン、ドドン、ドン、ドドン……。

「フフフフフフフ」

ドン、ドドン、ドン、ドドン。ドン、ドドン、ドン、ドドン……。

「ハハハハハハハ」

 その声の主は笑っていた。その笑い声はどんどん大きくなって、響く音に合わせて、愉快でも皮肉でもなく、ただの笑い声を形成している。それも音であった。

 ドン、ドドン、ドン、ドドン。ドン、ドドン、ドン、ドドン……。

 この地響きのような音は僕を高揚させる。

「ああああああぁぁ、あぁあああああああああぁぁ、ああ」

 一瞬の女の悲鳴。

悪魔はその身を大きく反り返らせると、背中からは大きな黒い双翼が生えそろった。

(この高なる音……)

 悲鳴を最後に全ての音は、その役目を終えたように終わり、この世界から五感の一部をえぐり、切りだして眠った。

 夜。

 そして滋野新剛は一つ呟く。


「ああ、そうかこの音は、僕の心臓の音なのか」


 その音は、僕の声は三人しかいない校舎にはよく響いた。


 ウサギが翼を数度羽ばたかせると、辺りの光が黒い翼に喰われて切り取られたように、その空間は暗くなった。

 そして加藤菜月はいなくなった。

 ウサギはその時ここぞとばかりに跳ねた。ぴょんぴょん跳ねた。

 天井を壁を、黒板を机を、ありとあらゆる平面はウサギの地面であった。跳ねる回数に比例して、ウサギはどんどん加速していく、最早、剛の動体視力では追いつけない。

 今や、剛の肉眼は悪魔の本体を追う事を諦め、影と残像を見る事しか叶わない、しかし、それもあと数度跳ねれば重なる加速により不可能となる。

 翼の軌跡は闇として空間に刻まれ続ける。

 闇が広がる。

 剛に恐怖は無かった。

 加速と運動の激しさを全く無視して、机や電球を足場に跳躍しても

それらの器物は一切動かず、又、音が聞こえなかった。

 平面を蹴る音も、高速で生じるはずの風切り音も――。

 闇の中では聞こえない。

 そこは一切の静寂であった。

 今までとは段違いの跳躍と反射スピードもう誰にも何も見えない。

 跳躍を超えた飛行。

 飛行を超えた消失。

 にもかかわらず、だが、そこには消えた彼女の残り香があった。

 僅かな匂いをかぎ分けられたのは、静寂のせいかも知れないし、それが引き起こした安寧のせいかも知れない。又はもう既に一切の光が喰われてしまったからかも知れない。

 それから……時間が流れた。数十秒、数分か、数十分だろうか、この闇の中では時間の感覚は麻痺してしまう。

 穏やかな時間の中で、滋野新剛は自身の脈打つ心音が耳触りだった。

 ドクン、ドクンと一つ一つ音を出す臓器が狂っている。

 何も無い闇では自分はどこにも居ないということがよくわかる。

 この世界には不相応である。

 どこから、いつ、どのように、己を襲うであろう危機と恐怖を実感する。

 普通ならばそのまま押しつぶされてしまう、けれども剛は違った、それを容赦した。

 それでも、よいではないかと、ゆるした。許して赦す、赦してから許した。

 そうすれば、自分もゆるされるきがしたからだ。


 暗黒の中で剛は目を瞑った。何も変わらなかった。

 ドクン……ドクン……。

 静かに滋野新剛は自身の全てを他力に任せた。

 そしてそれは、突如終わった。

 ゆっくりと、滋野新剛の視界いに血の赤が広がった。

 ……目を開けると。

 闇が光を内包し始め景色が帰ってきた。

 剛の目の前のはウサギの悪魔が背を向けて立っていた。

 ウサギは、赤い瞳をガラス越しに空に目を向け、大きく翼をはばたかせた。

 そして、こちらをもう一度だけ、悲しげに振り返ると。そのままガラスを突き破って、つい先刻まであった、月の方へ飛び去ってしまった。


(何も言ってはくれないのだな……)

 その場にはそんな音が響いた。



ご健勝とご繁栄をお祈り申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ