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12、君の幻想を使って Ⅱ


すぐに次行きます


 ――夜はまだまだ続く。

静かな夜。泣いていた虫は黙り。

月の川の部分が次第に広がり始める頃。

ダン、と言う大きな音がした。

 剛の意識が一瞬、そして確実に飛んだ。

 何だっけ? 思った。

見えたのはウサギの背中。

攻撃を受けてしまった。

 つまり、受けたそれは体当たりだった。

 高速の体当たり、と言うか両足を揃えての跳躍。

 相手は中々持っている引き出しの数が多そうだ。

 互いの感想はそれであった。

 最初と次の攻撃は、体当たりと突きの組み合わせであった。人間がその攻撃を行った場合、当たれば牛も倒せる程の威力はでる。まさに必殺の一撃である。

 当然、件の悪魔は、一撃で殺りに来た。しかし、結果としてそれにはカウンターをあわせられ、そして次にウサギは剛の一撃が偶然かどうかの確認に蹴りを再び放ってきた。


 そして次は体当たり――だった。


 ウサギの悪魔は自身の急所を腕で守りながら、背中をぶつけてきた、しかも初撃よりもずっと速かった。

 とっさに左腕を剛の前に、右手で左手をフォローする様に腕で十字を作り、威力を殺そうとした、しかしそれは意味をなさない。

剛は吹っ飛んだ。背骨を黒板脇の壁にぶつけ、建物が軋む錯覚を受けた。

「うう……」

 ウサギは滋野新を一瞥すると、面倒そうに辺りの机および椅子を両腕で吹き飛ばし、中央にちょっとした空間を作る。

 周囲を見回すともう既に教室はめちゃくちゃな有様であった。まともな机は殆ど無く、鉄パイプは曲がり、椅子は所々が欠け、壁には二つの大きな穴があいている。

 はぁ、これがばれたら大変だなと、頭に回った血が減り、見当違いな感想がふと頭に過る。そして自身の体が誰かの借り物のように眼に映った。

清々しい程のやられよう、たったの一撃で死に近づいた。

 ゴバッ。

 肺にあった空気が逃げ道を求め、同時に通路を邪魔していた血も押し上げられた。

剛は口から血液を吐き捨てた。と同時に己の肉体の損傷具合を確かめる。

極度の興奮でドーパミンが異常放出され肉体の損傷に比べれば痛みは大したことは無く、無論気絶も出来なかった。

 背骨は折れてはいなさそうだが、肋骨は折れてしまった。また、右腕は使い物にならず、右足も本来曲がるハズのない方向に曲がっていた。

しかしながら、それにもかかわらず、左腕は健在だった。

 何かを確信した様な目つきでウサギは言葉を紡ぎだした。

「そして、わたしは」

 その口調は優しく親切で、特に何よりも敬意がこもっていた。

 ウサギはゆっくり近づいてくる。

「決して死を恐れたりはしない」

 誰かに向かって告げている。

 たどたどしい言葉だった、誰かに何かを伝えたくて必死になって身につけた様な稚拙で敬意を持つべきと確信させる言葉だった。

 ウサギの両足がさらに伸び、身体には、しなやかさを孕んでいった。

「それに、理由は無い」

 それはまるで誰かに質問をしている様だった。

「もしこの囁きが聞こえるのならば……」

 このウサギは完全体になろうとしている。

「貴方は死んでいる」

 剛は壁からずるずると剥がれ落ち、そのまま座り込む形をとった。

滋野新剛の全身が粟立つ。

 それは恐怖からでは無かった、彼の悪魔の紡ぎだす言葉は真実であった。

 本心。

 人間でいる期間、人と人とはそうそう、互いの腹の内を見せたりはしない。嘘と欺瞞、、憎悪と嫉妬、それらの悪意を聞く事はあっても、自身の弱点を晒す者はいない。

 そう彼滋野新剛は件の悪魔に魂の世界で押されているのだ。

そして前方にいるウサギを見上げた。

 ウサギは真っすぐと瞳を覗き込み。最後の言葉を紡いだ。

「私は一度も言えなかった、私は……怖いのだと」

ウサギの頬から水が滴り落ちる。泣いていた。

そのまま、当然の様に己からかがみ、両手で丁寧に剛の左手をとって、しばしの間眺めてから。

そして左手の甲に優しく接吻をした。サラサラした、ひんやりとした肌触りだった。

人間の肌の感触では無かった。滋野新剛は今さらながら、『嗚呼、彼女とは本当にもう会えないんだろうな』と、思った。

その言葉を聞いていた剛は何故か『懺悔』という言葉が思い浮かんだ。理屈は分からないが、その口調と仕草とは、まるで神への告白であった。

 ウサギがうやうやしく左腕をもとあった位置に戻す。

すると剛の左腕は忽ち光を宿した。僅かに赤い光を。

「これは……」

 ――その斧は三ビルドゥある。

大なる武器であった。

悠然とそして墓標のように、剛の目前にそれは突き差さていた。

この斧は数週間前の春休みに一度だけ、剛が左手で用いた事のあるものだった。

 結果的にはこの斧により、彼は死地乗り越え、刃向かう全てを消し去った。

「どうして……」

 剛は有りっ丈の力で手を伸ばし、斧に手をかけた。

「手、足……てか全身死ぬほど痛いけど……」

 剛は立ち上がった。否、斧が座ることを許さなかったのだ。

 剛はもう一度だけ咳をして、口に溜まった血を吐きだした。

 そして、杖代わりにしていた武器を、斧を振り上げようとした時。

 ――音がした。




お読み下さった事を厚く感謝申し上げます。

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