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最初なので短めに書いておきます。

最後のまで読んで下さるとうれしいです。

000

  

 夜のことを決して僕は忘れない、あの夜のことを。

 緑色の天使は傷つき、弱弱しく羽ばたき僕の前で倒れこんだ。

 出会いは今までの僕の全てを一撃で破壊した。

 常識の外側からのアプローチは、ほとほと深夜の都市に似た魅力を孕み、呼吸を忘れさせるのは十分だった。

……僕の楽しい高校の生活も、平和な日常も吹き飛んだ。

 無欲な天使の願いはたった一つ……。



001


 滋野新剛しのしんごうは有名進学校に通う十七歳の男性である。品行方正を絵に描いたような風体と爽やかな雰囲気は初対面の相手の緊張感を解き、男女分け隔てなく話しかけやすい人物像を形成いた。

 優等生の中では飛びぬけて頭が良く、勘も鋭い。絶句するほど……。

 自分でも分かっていた皆とは違うと。

 だから気づかれないように、止めを刺した。

 自分自身に止めを刺した。

 自身でも気付かないように止めを――刺した。

 終止符を打った、殺した。

 特別であるようにとの願いの下で。

 だから、高校生である彼は、周りから見れば、無難にトップの成績をとる、学年に一人位はいるであろう、ただの優秀な学生であった。

 彼は知っていたのだ、いや、より正確に表現するのならば、気づいたのだ。

 自分と同じような人間は、どんなに隠してもこちらの事に理解を示し、集まってくると言う事が――分かった。

 それが確信に変わったのは今から数週間前の、高校生となってからは初めての春休みの事であった。

つまり、今の滋野新剛は高校の二年生である。

 そして、今の滋野新剛は高校二年生初めての登校である。

 だから、今の滋野新剛は周囲に同じ制服を着た男子生徒と、同じ様な特色の制服を着た女子生徒がいる。


「退屈」


声が聞こえた気がした。


 季節は春。早朝の空気はどこか慌ただしく、適度で心地よい緊張を孕んでいた。

 僕、つまり滋野新剛にとってはすでに一年を過ごした学び舎であっても、短い春休みは長い夏の休みのそれよりも、日々の学校生活気分を力強くリセットさせる効用がある様な感じがした。

 多くの学生たちが当然のように、時同じくして学び舎を目指す。穏やかに続く坂道を歩いて行く風景を見ながら、見合いながら。

 それは僕も漏れなく例外ではない。

 温かくも少し肌寒い空気の中で、僕は、ぼんやりと……春休みの事を思い出していた。

 人を好きになる事は無かった。

 いつも心は誰にも動かされる事は無かった……。

 ふと、強い風が生徒達を割って駆け抜け、ある女子生徒のスカートを勢いよく捲った。

 衆目に露わになるは、つまらなく言えばただの布。しかし、年頃の学生にとっては、その事実よりも少し重みのある装飾品である。

 パンツ。

 そして、その女子生徒はスカートを押さえ――るのが定石である。

 が、当事者である女性はそれを隠すこともなく、歩き続けた。

 静寂はすでにそこに広がっていた。

 カツカツ、ずりずり、という足音が当たりに鳴り響いている。生徒一人一人の布のこすれる音が耳触り、桜の花弁が吹き荒れて、シトシトと音を立てる。

 周りの雰囲気にのまれ、軽い吐き気とともに視界がぐらつく。

 僕の三メートル前にいる男子生徒の鞄が彼の手から離れ、大きな音があたりに走った。そして男がゆっくりと地面に吸い寄せられる様に倒れる。

 僕以外その光景に気づかない。

 誰も目を向けない。

 興味がない、関心の対象とならない。

 直截的に言って、近くにいる者どもを同じ人間と感じられない、冷たくて淡白な行動がそれを増長させる。


 異界。


 学生時代は誰であっても珍事や変事を体験する。

 それらは淡く切ない嫉妬や、意味のなく一所に熱中する狂気、そして儚い虚脱感を生みだしたりする。

 しかし、いずれも酷く世間的に認知された、年寄りから見たら有体の出来事である。

 けれども、これはそうではない。

 そういったものとは一線を画す何かがあるのだ。それが何かはまだわからない。

 春休みの最中からこう言ったことが身の回りでしばしば見られる光景となった。あたりの人間が急に虚ろに単調な行動を起こす。

 見知った世界が、知らない物になってしまった。

 でも、僕は知っている、さして気にする必要がない事を。そう、この現象は数分と続かないのだ。でも、それが本質でもないし問題でもないことであることも知っていた。

 ただ、知っただけ。

 そうこう考えている内に校門を過ぎ、学園内に僕は足を踏み入れていた。

 僕の新学期がゆっくりと始まった。



ありがとう……見て下さって、本当にありがとうございます。

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