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決意

実績カウントの無機質な音が、耳の奥にこびりついて離れなかった。

私の名前の横に刻まれた実績『1』という数字。それは佐藤くんという一人の人間の魂が絶望の果てに愛した人を殺し異世界を救ったという証だった。


「……ふーむ、初仕事はこれで終わり! 幸先いいね。もっともっとスピーディに片付けていこう。さ、次行ってみようか。今度は一癖ありそうな魂だなぁ〜へんな転生願望なんだよねー」


アオキャルさんは手元のホログラムを軽快に操作し、新しい資料を私のデスクに放り投げた。

けれど、私の指は動かなかった。


『……すみません、アオキャルさん。少し、席を外してもいいですか』


「ん? ああ、休憩? いいよいいよ。この仕事、根詰めすぎると魂が磨り減るからね」


アオキャルさんの軽い返事を聞き届ける前に、私は逃げるようにオフィスを飛び出した。

賑やかなフロアから離れ、人気のないテラスに出る。ふと外の景色を見るとそこには無機質な建物がいくつも並んでいた。道には多くの天使が行き来し、活気に満ちていた。


私の仕事は天界の生活や秩序を守るために役立っているのだろうか。


『……ここの仕事も思っていたものと違ったのかなぁ』


思っていたことがつい口から出てしまった。


転生管理課の仕事は、魂を幸せにする物語を作り、それに寄り添う仕事だと思っていた。

でも、実際は魂を決められたレールに乗せ、効率よく処理して完了報告を提出しているだけなのかもしれない。経理課で数字を扱っていたのとあまり変わらないのではないか。

私は佐藤くんの物語がどういう末路を辿ったのかほとんど知らなかった。確かに異世界を救ったが、そこに至るまでに彼がどんな思いをしたか、どんな思いでエルドラを倒したのか…。私は佐藤くんに何も寄り添えていなかった。アオキャルさんはそれでいいと言うが、果たして本当にそれでいいのだろうか…。

そんなことを考えていると背後から声が聞こえた。


「……あら、そんなところでどうしたの?」


聞き覚えのある落ち着いた声に振り返ると、そこにはティーカップを手にしたヘルミナさんが立っていた。


『ヘルミナさん……』


「顔色が悪いわね。あれからどう?仕事はうまくいった?私の作った魔王はどうなったかしら?」


私は堪えきれず、今の戸惑いを吐き出した。

ヘルミナさんは黙って私の話を聞き終えると、ふっと優しく微笑んだ。


「あなたは、とても優しいのね。それはこの課では欠点かもしれないけれど、私は嫌いじゃないわ」


『でも、こんな気持ちじゃ、次の仕事なんて……』


「いい? 私たちにできるのは、彼らの望みの世界を用意して、より良い結果が出る様に物語を演出してあげることだけなのよ。それ以上にできることなんて…ないのよ。……そうだ、甘いものでも食べたら? 脳が疲れていると、心まで後ろ向きになるわよ」


ヘルミナさんは私の肩を優しく叩いて、静かに去っていった。

一人残された私は、ふと思い出してズボンのポケットを探った。


指先に触れたのは、ハバククさんがくれた3つの角砂糖だ。

少しベタついていて、天界の清潔な風景には似合わない、異様な湿り気を感じさせる塊。


私は思い切って3つを一気に口に放り込んだ。


『…………あっまぁ…』


暴力的なまでの甘さが、舌の上で弾けた。

脳に直接、泥臭くて、欲深くて、それでも懸命に生きようとするエネルギーが流れ込んでくる…そんな気がした。そして同時にハバククさんは普段からこんな物を大量に摂取しているのかと思い、身震いした。完全にイカレている。


気が付くと頭がスッキリしていて意欲が湧いてきていた。

何も悩むことではない。私は自分の意思で、私のやり方で仕事に取り組むだけだ。次の案件は自分が主体となって、舵を切り、最後まで責任を持って仕上げるのだ。今ならできる気がする。どんな案件でも必ずやり遂げることができる。


私は再び活気に満ちた、戦場へと戻るために歩き出した。

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