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誰かに必要とされる理由を、僕はまだ知らない  作者: 優未緋


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(最終話)


――春、卒業式。勝利のその後


 全国優勝から、いくつか季節が過ぎた。


 廊下の掲示板に貼られた写真は、もう見慣れてしまった。

 優勝旗も、部室の隅で“当たり前”の顔をしている。


 それでも――今日だけは、少し違う。


「……静かだな」


 穂村斎が、ぽつりと言った。


「卒業式だしな」

 布上朔は答えたが、声が少しだけ上ずっていた。


 校舎のあちこちに、花の匂いがする。

 体育館の前には、晴れ着やスーツの三年生たち。

 見慣れた背中が、今日は少しだけ遠い。



卒業式


 式は、滞りなく進んだ。


 校長の言葉。

 在校生代表の挨拶。

 名前を呼ばれて、返事をする声。


 条鋼蓮の返事は、相変わらず落ち着いていた。

 神々桜は、返事のあとに軽く手を振って先生に止められる。

 貝塚樹は、短く、確かな声で「はい」と言った。


 その三人の名前が並ぶだけで、胸の奥がきゅっとなる。


 ――もう、同じチームじゃない。


 分かっているのに、実感が追いつかない。



式のあと


「司令!」


 卒業生の列が解けた瞬間、

 桜が真っ先にこちらへ飛んできた。


「どうだった!? 私の返事!」


「……いつも通り、桜先輩でした」


「でしょ!」

 満足そうに笑って、でも次の瞬間、目を逸らす。

「……泣いてないからね?」


「目、赤いですよ」


「気のせい!」


 その後ろから、蓮が歩いてくる。


 制服の最後の日。

 でも、背筋はいつも通りまっすぐだった。


「布上」


「……はい」


 短い沈黙。


「ここまで、よくやった」

「全国優勝も」

「部の雰囲気も」


 一つひとつ、噛みしめるように言う。


「……あとは任せた」


 その言葉が、

 “引退”よりも重く胸に落ちた。


「……はい」


 それしか言えなかった。


 樹が、横に来る。


「……司令塔」

 一拍。

「いい仕事だった」


 それだけ。


 斎がすぐ横で頷く。


「翻訳すると、最高評価な」

「泣いていいやつ」


「泣かないです」

 朔は慌てて否定した。



桜と蓮(いい感じ、確実に)


 少し離れた場所。

 桜が、蓮の袖をちょんと引いた。


「……部長」


「ん?」


「今日さ」

 視線を泳がせる。

「卒業式だし……」


 言葉に詰まる。


 蓮は、急かさない。

 ただ、待つ。


「……答え」

 桜は小さく笑う。

「急がなくていいって言ったけど」


 少しだけ、真面目な声。


「でも、これだけは言わせて」

「私、あの大会の日」

「隣に居られて、嬉しかった」


 蓮は、一瞬だけ目を伏せてから、言った。


「……俺もだ」


 それだけ。


 でも、桜の顔が一気に明るくなる。


「え、なにそれ」

「それってさ――」


「続きは」

 蓮が穏やかに遮る。

「また今度」


「……ずるい!」


 でも、桜は笑っていた。

 泣いていない。

 泣かない代わりに、未来を持っていく顔だった。



後輩たち


「先輩!!」


 凛が、少し緊張した様子で近づく。


「……卒業、おめでとうございます」

「それで……」


 ちらりと朔を見る。


「私、司令塔」

「目指します」


 朔は一瞬言葉を失って、照れたように笑った。


「……一緒に、考えよう」


 凛は大きく頷く。


「はい!」


 その横から、悠がぐいっと割り込む。


「先輩!」

「来年も前線、やりますから!」


「……分かってる」


「それと!」

 少し声を落とす。

「今日は我慢しました」


「……ありがとう?」


「代わりに」

 にやり。

「後で、いっぱい甘えます!」


 遥が即座に反応する。


「ちょっと!?」

「それ聞き捨てならないんだけど!」


「事実です!」


 碧がため息をつく。


「……今日くらい、静かに」


「無理だろ」

 斎が即答。

「このメンツで」



湊と翠


「湊!」


 翠が駆け寄って、当たり前のように腕を組む。


「卒業式どうだった?」


「……感動した」

「俺が泣きそうだった」


「でしょ?」

 誇らしげに笑う。

「うちの湊、いい人だから」


「自分で言うな」


「言う!」


 二人のやり取りを見て、

 遥と碧が同時に目を逸らす。


「……相変わらず」

「……眩しい」



知世(大人の背中)


 校舎の外。

 風の当たる場所。


 神々知世は、缶コーヒーを片手に空を見ていた。


「……卒業かぁ」


 桜の背中を見て、

 小さく笑う。


「いい青春だったじゃん」


 誰に向けた言葉かは、分からない。



最後の部室


 夕方。

 三年生が帰ったあとの部室。


 椅子は少し減った。

 でも、静かじゃない。


 斎、湊、悠、凛。

 そして、朔。


「……で?」

 斎が言う。

「次、どうすんの司令」


 朔は、少し考えてから答えた。


「……共有しよう」

「みんなで」


 斎が笑う。


「はいはい」

「相変わらずだな」


 悠が、そっと朔の隣に立つ。


「必要ですよ」

「先輩」


 凛も頷く。


「私たちに」


 朔は、何も言えなくなった。


 でも。


 胸の奥が、温かい。



エンディング


 誰かに必要とされる理由を、

 布上朔は、まだ言葉にできない。


 それでも。


 ここには、仲間がいて。

 笑い声があって。

 次の話題があって。


 そして――

 明日がある。


誰かに必要とされる理由を、

僕はまだ知らない。


それでも――

今日も、ここに居場所がある。


(完)


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