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誰かに必要とされる理由を、僕はまだ知らない  作者: 優未緋


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勝利のあと――輪がほどけて、また結ばれる


 勝利表示が消えても、誰もすぐには動けなかった。


 音は戻ってきたはずなのに、

 世界が一拍、遅れている。


 ヘッドセット越しに聞こえるのは、

 荒い呼吸と、誰かが小さく笑う声。


「……勝った?」


 最初にそう言ったのは、穂村斎だった。


「……勝ったな」

 貝塚樹が、静かに答える。


 それで、やっと現実が追いついた。


「勝った……!」

 斎が椅子から立ち上がる。

「勝ったぞおい!!」


 桜が跳ねた。


「っしゃあああ!!」

「ほら見た!? 私、暴れた!!」


「うるさい」

 樹が言うが、口元は僅かに緩んでいる。


 悠は、前線の緊張を解いた瞬間、

 その場に座り込んだ。


「……はぁ……」


 湊が慌てて近づく。


「悠、大丈夫か」


「……大丈夫です」

 息を整えながら笑う。

「ちゃんと……受け止めましたから」


 そのやり取りを見て、

 朔はまだ、椅子に座ったままだった。


 手の震えは、止まっていない。


 でも、それはもう、怖さの震えじゃない。


「……司令」


 蓮が、朔の前に立つ。


 穏やかな顔。

 でも、その目は誇らしさを隠していない。


「よくやった」


 その一言で、

 朔の喉の奥が、ぎゅっと詰まった。


「……俺」

 声が掠れる。

「俺、途中……」


「いい」

 蓮は首を振った。

「途中で修正した」

「それが司令塔だ」


 桜が後ろから割り込んでくる。


「そうそう!」

「完璧じゃないとこが良かったんだって!」


「桜先輩……」


「なに?」

 桜は満面の笑みだ。

「司令、最高だったよ」


 その言葉で、

 朔の胸の奥に溜まっていたものが、

 少しだけ溶けた。



観客席との合流


 選手用通路を抜けた先。


 そこにいたのは、

 全力で手を振る三人だった。


「朔!!」

 遥が、叫ぶ。


 その声に、思わず足が止まる。


「……遥」


「ちょっと!」

 遥は近づいて、朔の胸元を軽く叩いた。

「心配させすぎ!」


「……ごめん」


 そのやり取りを、

 碧が一歩引いた場所から見ている。


「……勝利、おめでとう」

 静かに言う。

「見事だったよ、司令塔」


「碧……」


「褒めてる」

 碧は淡々と続ける。

「ちゃんと、任せていた」

「それが、一番難しい」


 遥が少しだけ口を尖らせる。


「……私だって褒めてる」


 火花が、また小さく散る。


「はいはい」

 そこへ割って入る声。

「今それやる?」


 翠だった。


 そして次の瞬間。


「湊!!」


 翠は一直線に走って、

 湊に思いきり抱きついた。


「ちょ……!」

「無事でよかった!!」

「ほんとに!!」


「……重い」

「うるさい! でも離れない!」


 湊は苦笑しながら、

 そっと翠の背中に手を回す。


「……ありがとう」


 翠は、顔を上げて言った。


「でしょ?」

「うちの湊、かっこよかったでしょ!」


 遥と碧が、同時に視線を逸らす。


「……はいはい」

「仲良しだね」


 翠は得意げに胸を張る。


「うん、仲良し!」



悠の砂糖爆発(解禁)


 その少し後。


 朔の背後から、

 勢いよく何かがぶつかってきた。


「先輩!!」


 針瀬悠だった。


「……うわ」


「勝ちました!!」

 ぎゅうっと抱きつく。

「勝ちましたよ!!」


「……悠、近い」


「いいじゃないですか!」

「今日は許可日です!」


 遥が目を見開く。


「ちょ、ちょっと!?」

「悠、離れなさい!」


「無理です!」

 即答。


 碧がため息をつく。


「……節度というものを」


「節度は勝利の後に死にました!」


 凛が、少し離れた場所で、

 その光景を見ていた。


 そして、勇気を振り絞るように言う。


「……先輩」

「本当に……すごかったです」


 朔は、悠に抱きつかれたまま、

 凛を見る。


「……ありがとう」


 凛は、その一言で、

 満足そうに笑った。



円陣の“その後”


 控室に戻る途中。


 自然と、全員が集まる。


 誰かが言ったわけじゃない。

 でも、輪になった。


「……円陣」

 斎が言う。


「今さら?」

 桜が笑う。


「今だからだろ」

 樹が言う。


 全員が手を重ねる。


 蓮が、短く言った。


「いいチームだった」


 桜が、少しだけ真面目な声で。


「うん」

「今日のは、本物」


 朔は、輪の中心で、

 ゆっくりと言葉を探す。


「……俺」

 一拍。

「一人じゃ、無理でした」


 誰も否定しない。


 それが答えだった。



桜と蓮(静かな続き)


 少し離れた場所。


「……部長」


 桜が言う。


「昨日のさ」

 目を逸らしながら。

「返事、今日じゃなくていい」


 蓮は、少し驚いたように目を瞬かせる。


「……そうか」


「うん」

 桜は笑う。

「今日は勝利の日だから」


 その横顔は、

 いつもより大人びて見えた。



知世の締め


 会場の外。


 ベランダ代わりの喫煙所。


 缶ビール。

 タバコ。

 夜風。


 知世は、一人で空を見上げる。


「……勝ったじゃん」


 少し間を置いて。


「しかも、いい勝ち方」


 煙を吐いて、

 小さく笑った。


「……青春、嫌いじゃない」



ラスト


 帰り道。


 少し前を歩く朔の背中を、

 たくさんの視線が追っている。


 遥の視線。

 碧の視線。

 悠の視線。

 凛の視線。

 仲間たちの視線。


 布上朔は、まだ知らない。


 誰かに必要とされる理由を。


 でも――


 それを探す場所に、

 確かに立っていた。


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