表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰かに必要とされる理由を、僕はまだ知らない  作者: 優未緋


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/26

23


決勝戦・前半


――見覚えのある動き、通じない判断


 決勝戦の舞台は、音が違った。


 歓声はある。

 拍手も、実況も、応援もある。


 なのに――

 耳に入ってこない。


 布上朔の意識は、

 モニターの光と、ヘッドセット越しの自分の呼吸音だけに集中していた。


「……静かだな」


 隣で、穂村斎が小さく言う。


「準決と違う」

 貝塚樹が淡々と補足した。

「観客が“見る側”になっている」


 準決勝は、必死だった。

 声が出て、感情が溢れて、勢いでぶつかり合った。


 でも決勝は違う。


 一手一手が、評価される空気。

 ミスが「事故」じゃなく「判断ミス」になる場所。


 桜だけが、いつも通りだった。


「うわー、緊張感あるね!」

「逆に燃えるんだけど!」


 誰も突っ込まない。

 それが桜だ。


 条鋼蓮が短く言う。


「……始まるぞ」



 試合開始 ― 見覚えのある序盤


 カウントダウン。


 画面が切り替わり、フィールドが映る。


「……来るぞ」


 朔は、呼吸を整える。


(……落ち着け)


 開始直後。


「……あ」


 湊が、小さく声を漏らした。


 相手の初動が、

 見覚えのある配置だった。


「……去年の」

 斎が低く言う。

「最初の形だ」


 朔の心臓が跳ねる。


(……同じ)


 相手の前線の張り方。

 中央の圧のかけ方。

 視界を削るタイミング。


 朔は、即座に判断を出す。


「……悠、前」

「はい!」


 悠が前に出る。

 反応は悪くない。


(……いける)


 去年、やられた形。

 でも今年は、対策を知っている。


「……樹、カバー」

「了解」


「湊、右」

「オッケー」


 指示が通る。

 動きが噛み合う。


 最初の衝突。


 ――耐えた。


「……通じてる」

 斎が言う。


 桜がニッと笑う。


「でしょ?」

「いけるいける!」


 朔の胸に、

 小さな光が灯る。


(……勝てる)


 去年とは違う。

 自分は、同じ場所に立っていない。


 そう、思った。



 対策の、その先


 だが。


 相手は、そこで終わらなかった。


「……来る」

 樹の声が硬くなる。


 相手の動きが、変わった。


 同じ形。

 同じ入り。


 ――でも、速度が違う。


「っ……!」

 悠が息を詰める。


「……重っ」

 湊が歯を食いしばる。


 相手は、

 **“対策された後の対策”**を用意していた。


 去年の動きを“囮”にして、

 さらに一段上の読みを重ねてくる。


(……まじか)


 朔の背中に、冷たい汗が流れる。


「……悠、下がって」

 一瞬遅れて指示を出す。


「……了解」


 だが、その一拍が――


「……遅い!」

 斎が叫ぶ。


 相手が、一気に踏み込む。


 前線が削られる。

 視界が一気に狭まる。


「……っ!」


 先に、有利を取られた。


 会場が、ざわつく。


「……読まれてる」

 樹が言う。

「朔の判断を、先に置かれている」


 朔は唇を噛む。


(……またか)


(……去年と、同じ)



 勝てると思った分、苦しい


「……司令」

 湊が言う。

「どうする?」


 その声に、

 去年の自分が重なる。


 あの時も、

 仲間は自分の判断を待っていた。


(……俺が)


(……俺が、決めなきゃ)


 朔は、必死に思考を回す。


 でも、相手の動きが頭にこびりつく。


 ――知っている。

 ――でも、追いつけない。


「……くそ」


 判断が、遅れる。


 その一瞬。


「……っ!」


 悠が、身体を張って受け止める。


「大丈夫です!」

 声は強がりだ。


 だが、削られているのが分かる。


「……悠、無理すんな」

 朔が言う。


「無理します!」

 悠が即答する。

「今、前線ですから!」


 その言葉が、

 朔の胸を締め付ける。


(……また、背負わせてる)


 桜が口を挟む。


「司令!」

「焦りすぎ!」


 だが、声が届く前に、

 相手は次の一手を打ってくる。


 点差が、開く。


 画面が、重い。


(……勝てない)


(……やっぱり)


 その思考が、頭をもたげる。



 観客席が、耐えきれなくなる


 観客席。


 遥は、拳を握りしめていた。


「……朔」


 声が、漏れる。


 碧も、冷静でいようとしているが、

 目が画面から離れない。


「……判断、遅れてる」

 呟く。

「でも……責められない」


 翠は、身を乗り出している。


「湊……!」

「無理しないで!」


 声が、大きくなる。


 その横で、凛が立ち上がりかけた。


「……先輩……!」


 気づいたら、声が出ていた。


 遥も、碧も、

 同時に叫ぶ。


「朔!!」


 理性より先に、声が出る。


 観客席の空気が、一気に崩れる。


 知世が、少し離れた場所で、だるそうに呟いた。


「……アオハルだねぇ」


 でも、その目は、

 画面を真っ直ぐ見つめていた。



 前半終了 ― 見えない出口


 時間が進む。


 状況は、好転しない。


 桜はまだ出られない。

 切り札は温存されている。


 悠は、限界に近い。

 湊も、余裕がない。


 朔の判断は、

 正解と不正解の境界で揺れ続けている。


 そして。


 前半終了を告げる合図。


 画面が暗転する。


 一瞬、誰も言葉を発さなかった。


 勝っていない。

 でも、負けてはいない。


 それが、余計に重い。


「……最悪だな」

 斎が言う。


「いや」

 樹が静かに否定する。

「最悪ではない」


 蓮が言葉を継ぐ。


「……だが、楽観できる状況でもない」


 朔は、俯いたままだった。


 去年の影が、

 今も、足元にまとわりついている。


(……俺は)


(……まだ、越えられてない)


 観客席の声が、遠く聞こえる。


 遥の声。

 碧の声。

 翠の声。

 凛の声。


 全部、届いているのに、

 掴めない。


 前半は、終わった。


 出口は、まだ見えない。


まだ、負けてはいない。

けれど――

勝つ未来も、見えていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ