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誰かに必要とされる理由を、僕はまだ知らない  作者: 優未緋


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18/20

18


準決勝前/声の余韻と、距離の変化


 二回戦が終わった直後の控室は、妙に静かだった。


 勝った。

 確かに勝った。


 でも、初戦の時のような高揚はない。

 それだけ、相手が強く、試合が重かったということだ。


 布上朔は椅子に腰を下ろし、深く息を吐いた。


(……疲れた)


 体よりも、頭が。


 判断の一つ一つが、まだ胸の奥で反芻されている。


「……お疲れ」

 蓮が静かに言う。

「よく立て直した」


「ありがとうございます」

 朔は素直に答えた。


 褒められると、少しだけ肩の力が抜ける。


 その横で。


 条鋼凛は、控室の端に立ったまま、まだ少し落ち着かない様子だった。


(……声、出ちゃった)


 二回戦の途中。

 思わず漏れた、自分の声。


 恥ずかしい。

 でも――


(……怒られなかった)


 それどころか。


「凛ちゃん」


 神々桜が、いつもの軽い調子で声をかけてきた。


「さっきのさ」

「……は、はい」


「いいタイミングだったよ」

「え……?」


 凛は思わず顔を上げる。


「応援ってさ」

 桜は肩をすくめて笑う。

「分かってる人が出すと、めちゃくちゃ効くんだよね」


 軽い言葉。

 でも、ちゃんと見ていたという証明。


「……ありがとうございます」

 凛は小さく頭を下げた。


 胸の奥が、じんわり温かい。


(……私、ここにいていいんだ)


 そんな感覚が、初めてはっきり芽生えた。



 その時。


「――いた!」


 控室の入口から、明るすぎる声が響いた。


「やっと見つけたー!」


 振り返ると、そこに立っていたのは三人。


 釘宮遥。

 槌見碧。

 そして――剣城翠。


「来ちゃった」

 翠が満面の笑みで言う。

「勝ちすぎて暇だったから!」


「嘘つけ」

 遥が即座に突っ込む。


「……邪魔だった?」

 碧が少し遠慮がちに言った。


「いや」

 朔は即答した。

「……ちょうど、休憩中だ」


 その一言で、空気が少し和らぐ。


「二回戦、すごかったね」

 碧が言う。

「本当に」


「……ありがとう」


 遥は朔の顔をじっと見てから、短く言った。


「無理してない?」

「してない」

「……ならいい」


 それだけ。


 でも、それが一番効く。



「湊ーー!!」


 次の瞬間だった。


 翠が一直線に駆け出して――


「うわっ!?」


 そのまま、全力で抱きついた。


「ちょっ、翠!」

「なに!?勝ったんだからいいでしょ!!」


 ぎゅっと、遠慮ゼロのハグ。


「さっきの試合、めちゃくちゃかっこよかった!」

「……ありがとう」


 湊は苦笑しつつも、腕を下ろさない。


「次も勝てるよ」

 翠は顔を上げて言う。

「だって湊だもん」


「……プレッシャーかけるなよ」

「応援だよ!」


 その様子を、周囲が見ている。


「……すげぇな」

 斎が小声で言う。


「ストレートすぎる」

 碧が苦笑した。


 遥は視線を逸らしつつ、ぽつりと言った。


「……ああいうの、迷わなくていいのは強いね」


 凛は、その光景を目を見開いて見ていた。


(……ああやって、応援していいんだ)


 声を出すこと。

 気持ちを表に出すこと。


 それは、間違いじゃない。


 むしろ――力になる。



 少し落ち着いた頃。


「そろそろ準決勝だね」

 碧が静かに言った。


「うん」

 朔は頷く。

「……相手、強い」


「分かってる」

 碧は微笑んだ。

「でも、見てるから」


 それ以上は言わない。


 遥は一歩下がって、いつもの距離に戻る。


「……変に気合い入れなくていいから」

「いつも通りで」


「……ああ」


 その言葉で、朔の背中が少し軽くなる。


 翠は最後に、両手を振った。


「次も全力で応援するからねー!」


 そして、三人は控室を後にした。


 残された空気は、少しだけ柔らかい。



 準決勝前。


 チームが再び集まる。


 凛は、いつもより少しだけ顔を上げていた。


 朔を見る。


 試合中の背中。

 迷いながらも、立ち続けた姿。


(……同じ部員だ)


(……同じ円の中にいる)


 遠いだけの存在じゃない。


 そう思えた。


「……次、行こう」

 蓮が言う。


 全員が頷く。


 桜がにっと笑った。


「よーし!次も青春しよー!!」

「静かに」

 蓮が即ツッコむ。


 でも、誰も嫌そうじゃない。


 知世が壁にもたれて言った。


「ルール守って」

「怪我しないで」


 一拍置いて。


「……でも、楽しんできな」


 準決勝が始まる。


 勝負は続く。

 恋も、続く。


 布上朔は、まだ知らない。


 誰かに必要とされる理由を。


 でも。


 声を出してくれた人がいて、

 抱きしめて応援する人がいて、

 黙って見守る人がいて。


 その全部が、

 同じ場所で、同じ時間を共有している。


 それだけで――

 前に進む理由としては、十分だった。


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