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誰かに必要とされる理由を、僕はまだ知らない  作者: 優未緋


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16


二回戦/迷いが生まれる場所


 二回戦の開始時刻が近づくにつれ、控室の空気は少しずつ張り詰めていった。


 初戦のような高揚感はない。

 代わりにあるのは、現実的な緊張。


「相手、強いな」

 湊が小さく言った。


「地区優勝常連校」

 樹が淡々と補足する。

「個々の精度が高い。特に判断速度」


「つまり?」

 桜が首を傾げる。


「布上と同等、もしくはそれ以上」

 樹は事実だけを告げた。


 一瞬、視線が朔に集まる。


 朔は、何も言わなかった。


(……同等、か)


 初めて聞く評価だった。


 今までは、

 “チーム内では頭が回る”

 “同年代では少し上”

 そのくらいの認識だった。


 同等。

 それ以上。


(……勝てるのか)


 胸の奥に、

 初戦ではなかった感覚が生まれる。



「円陣、行こう」


 蓮の声で、全員が集まる。


 手を重ねる。


 初戦よりも、少しだけ力が入る。


「布上」

 蓮が言った。

「迷ったら、抱え込むな」


 朔は、少しだけ目を見開いた。


「……分かってます」


 本当に?


 自分で、自分に問いかける。



 観客席。


「……雰囲気、違うね」

 碧が小さく言った。


「うん」

 遥は画面を見つめたまま頷く。

「重い」


「え?そう?」

 翠は首を傾げる。

「でも勝てるでしょ!」


「勝てるかどうかじゃない」

 碧は静かに言った。

「“どう勝つか”」


 遥は何も言わない。


 ただ、指先をぎゅっと握っている。



 試合開始。


 初動から、相手の動きが違った。


「……速い」

 湊が言う。


「無理に前出ないで」

 朔が指示する。

「様子見」


 相手は、焦らない。


 こちらの動きを見て、

 一瞬の隙を突いてくる。


「針瀬、下がって」

「……はい!」


 悠が一歩引く。


 その瞬間。


(……今、押せたか?)


 朔の頭に、別の選択肢が浮かぶ。


 初戦なら、迷わず指示を出していた。


 でも今は。


(……外したら)


 その一瞬の迷い。


 相手は、逃さなかった。


「……来る!」

 樹が言う。


「防御――」

 朔が言いかけて、止まる。


(……いや)


 攻めるか。

 耐えるか。


 判断が、遅れた。


「針瀬、耐えて!」

「――はい!」


 悠は全力で踏ん張る。


 でも、相手の圧が強い。


「……抜かれた」

 湊が歯噛みする。


 一気に不利になる。


 控室。


 桜が思わず声を上げかけて、口を押さえた。


「……大丈夫、大丈夫」

 自分に言い聞かせるように呟く。



 観客席。


「……今の」

 翠が息を飲む。


「判断が遅れた」

 碧は冷静に言った。

「ほんの一瞬」


 遥は、何も言えない。


(……迷ってる)


 初めて見る朔の顔だった。



「……切り替え」

 朔は自分に言い聞かせる。

「次、立て直す」


 声は、落ち着いている。


 でも、胸の奥はざわついたままだ。


(……俺が迷った)


 自覚した瞬間、

 司令塔としての責任が、重くのしかかる。


「先輩」


 悠の声。


「まだ行けます」

「……ああ」


 迷いのない声。


 それが、今は少しだけ眩しい。



 凛は、モニターを見つめながら拳を握っていた。


(……同じ部員なのに)


 朔の迷いが、分かる気がした。


 自分も、似た感覚を知っている。


 “失敗したらどうしよう”

 “自分のせいだったら”


 その怖さ。


(……でも)


 悠は、迷っていない。


 凛は、その差を痛感する。



「布上」

 蓮が小さく声をかける。

「次、どうする?」


 一瞬。


 朔は、視線を上げた。


「……攻める」

「根拠は?」

「……相手は、俺が迷う前提で来てる」


 自分の迷いを、逆手に取る。


「一回、強気で行く」

「針瀬、耐えすぎるな」

「前、出ていい」


「……はい!」


 悠の声が、力強く返る。



 試合は、再び動き出す。


 まだ、勝敗は見えない。


 でも。


 朔は、迷いを抱えたまま――

 それでも前に立っている。


 それが、二回戦だった。


 勝負は続く。

 感情も、続く。


 誰かが強くて、

 誰かが揺れて、

 誰かが追いつこうとする。


 布上朔は、まだ知らない。


 誰かに必要とされる理由を。


 でも。


 迷いながら立ち続けることも、

 その理由の一つなのかもしれないと――

 ほんの少しだけ、思い始めていた。


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