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〈晩秋やタトゥーの若葉靑き儘 涙次〉



【ⅰ】


カンテラ、朝。傅・鉄燦大小を腰に差した。ポーチで稽古の時間、朝メシ前のひと時。が、何か一つ足りない。* あれからひと月經つたが、カンテラ(外殻)が呼んでゐるやうな氣がする。鞍田文造の幻影を斬つたあの未明から、彼はこの古ぼけたカンテラに籠る事はなかつた。が、いつ何時も、その存在を忘れた事はない。(俺は灯油の味、結局忘れられないのだな。)だがそのカンテラに火は灯らない。もはやそれが過去の遺物だと云ふ証左だ。



* 当該シリーズ第104話參照。



【ⅱ】


然しいけない、とは思ひつゝも、そのカンテラ、嘗て烏賊釣り漁船に灯火の明を齎したブツ、その成れの果てを肩からぶら提げ、カンテラ、「開發センター」内の「方丈」に向けて、ぶらり歩き出した。朝メシは牧野に作つて貰はう。

そのカンテラの姿を見送る者がゐた。テオである。(カンテラ兄貴、やはりカンテラ=ランタンの居心地を忘れられないのだな)



【ⅲ】


方丈に着いた。牧野はまだ出所してゐなかつた。(いゝさ。朝メシは後だ)-「方丈」で、護摩壇に向かふ。灰を一欠片、カンテラ(くどいやうだが、外殻)に振り掛けた。そして、呪文。蘇へれ、カンテラよ。南無- 外殻の芯に、指から出した炎を近付ける。案外他愛もなく、外殻は火を點じた...



※※※※


〈コスモスの絡まり合へる我が墓に持つて行くのは手鏡一つ 平手みき〉



【ⅳ】


外殻、我が憩ふところ。そして我が墓。カンテラは矮小化し、所詮俺は麻藥中毒患者なのだ、引き籠もりのヒーローなのだ、と思ひつゝ、ほんの一時だけだが、外殻に「吸ひ込まれた」。

だうやら、牧野が出所して來たやうだ。カンテラは怪しまれぬやう(やはり後ろ暗さはあつた。一度は棄てた外殻だ)、小聲で「南無Flame out!!」と唱へた。實體化- 牧野「あれカンさん早いですね」-「あ、あゝ、ちと昨日やり殘した事があつてな」-「朝メシまだでせう。俺、作りますよ。少し待つてゝ下さい」



【ⅴ】


朝食の献立は、麦飯、豆腐と若布の味噌汁、それに牧野が自分で漬けた澤庵漬け、と質素なものであつたが、カンテラは朝は余り食べないのを、牧野は知つてゐた。

急ぎメシを認めたその後、カンテラは「センター」の庭で獨り太刀を揮つたが、躰が輕く、(灯油が利いてゐるやうだ。フルには惡いが)と苦笑した。



【ⅵ】


晝前迄には事務所に帰つた。外殻は「方丈」に置いて來た。悦美に惡い氣がするのは、やむを得ない。

だが、その悦美(テオに打ち明けられてゐた)、「何も隠す事ないぢやない。わたしたち夫婦なのよ」と云ふ。カンテラ、何やら忝く、* 息子翔吉を宿して、大きく膨れ上がつた悦美の腹に縋り、泣き崩れた(單に緊張がほぐれたのだ。ほんの眞似だけ。涙はだうせ出ない)。

「わたし逹一味はファミリーなのよ、カンテラさん。貴方の性癖の一つや二つ、呑み込む能力はあるわ」



* 当該シリーズ第92話參照。



【ⅶ】


カンテラの耳には、「ファミリー」と云ふ言葉は新鮮に響いた。そして彼はそれを受け容れた-



※※※※


〈鏡には醜男ゐるよ秋の夜 涙次〉



そんな譯で、カンテラはカンテラ外殻をその生活に取り戻した。家族の庇護あつての、「斬魔屋」だ。何も後ろめたいところはなかつた。



〈カンテラ〉


私はヒーローでありたい

と思つた事はない

たゞ剣を實地に使ふ仕事で

食つていきたいだけだ

あまつさへ世知辛い世の中

そんな仕事は

世に棄てられた【魔】を

その「棄て」られた通り

斬る事しかない

嗚呼棄てられた者同士

私逹は対峙する

未明、私は燈下にあり

何かに衝き動かされる

それが何かは知らない

知らぬのは

さうしてゐる事が

一つの大きな僥倖なのだからだらう

例へ私に倖せと云ふ言葉が

似合はぬとしても。

貴方は如何ですか?

最近そして

永劫-



お仕舞ひ。


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