勇者全員、幸せにするつもり
「勇者の花嫁はバカなのか」の聖女視点のお話です。
前作を読んでいなくても読めると思います。
前作の感想を色々いただいたのですが、うまく言葉が見つからず返信できないままで、ごめんなさい。
自分の作品を後から解説するのもどうかな、と思っているので、わたしの考えていた設定はこうだよ、という感じで書いてみました。
暗いしムーンで書いたほうがいい?というお話になった気もしますが。
面白くないかもしれないし、さらに矛盾もあるかもしれませんが、ご興味のある方は読んでみてください。
あまりに批判が多ければ削除するかもしれません(;'∀')
高校からの帰り道、眼が眩むほどの光に包まれた。
ぎゅっと閉じた目を開くと、わたしをのぞき込む見知らぬ人々。
「ひっ」
驚きのあまり後ずさろうとするが、わたしはすでに尻もちをついた状態だった。
座り込んだ床に目をやると、怪しげな円状の図の中心に、わたしはいた。
「聖女様、言葉はわかりますか?」
わたしを囲む集団の中心にいた焦げ茶色の髪をした男性に問いかけられる。
聞き取れたものの、せいじょ? 聖女? 言葉の意味がわからず、首を横に振った。
「あなたはこの国の、この世界の希望です」
そう言われて、この状況を説明された。
『聖女が現れし時、魔王が誕生する』
この世界に古くから伝わる言葉らしい。現にこれまでも聖女が現れると決まって魔王が誕生し、その魔王を聖女と勇者達が倒したという文献が残っているという。
聖女が現れるのは、なぜかここファクトリック王国の王城の地下にある、この魔方陣だという。
前回聖女が現れたのは百年以上も前だったということで、この魔方陣がいつからあり、誰が書いたのかも、知る人はいないらしい。
しかし、今朝、この国の第二王子が聖女が現れる夢を見たと発言し、その数時間後、本当に黒髪黒目の少女が現れたということだった。
「聖女様、お名前は?」
「高階茉莉絵です」
「タカスアマリー?」
言葉は通じるものの、目の前の金髪や青髪に赤髪、彫りの深い西洋風ファンタジックな集団には、わたしの日本名は聞き取りづらいようだ。
「まりえ、です」
「マリー?」
自分の名前に強いこだわりのないわたしは、それでいいや、とこくんと頷く。
「聖女様、勇者の条件は?」
一人っ子でのんびり気質なわたしは、自分は聖女ではない、という反論をすることも出来ず、問われるがまま質問に答える。
「金髪に青い目の、礼儀正しいキラキラした人?」
その時のわたしは、最近友人に貸してもらったマンガに出てくる勇者を無意識に口にしてしまった。後から思えば「強くて賢い」とか「国一番の剣の使い手」とか答えるべきだったのだと思うけれど。
そうして、三日後には金髪に青い目のキラキラした男性達が集まるホールに連れて行かれ、この中から七人選ぶように言われた。
この国に来てから三日経ち、わたしはこれが流行りの異世界転生であると、なんとなく理解し始めていた。
わたしは何の特技もない、クラスでも端っこにいる地味な生徒だった。
マンガや小説、流行っているアニメも見たりはするが、周囲にいた友人達のように熱狂するほどでもなく、まさか自分が物語の中に入り込む日が来るなんて、夢にも思っていなかったし、望んでもいなかった。
両親はどちらも仕事が忙しく、たまに顔を合わせればケンカばかり。正直、わたしがいるから離婚しないだけ、といった義務だけの夫婦。
それでも、もう元の生活に帰れないかもしれないという不安と、わたしがいなくなっても周囲は何の変化もないかもしれない、という自分の存在意義の揺らぎ、情緒が不安定になっていた。
この国のこと、聖女や魔王のことを教えてくれて、三日間ずっとそばにいてくれた第二王子は、焦げ茶だった髪を金色に染め、その中にいた。
彼は勇者に選ばれたいのだ、とすぐに気が付き、一番に彼を選んだ。
後の六人は、なんとなく目についた人を順に選んだので、無意識に見目の良い、自分好みの人ばかりになってしまった。
その時のわたしは、自分は聖女なんかじゃないし、この国も世界も知らないし、それよりこれからわたしはどうなるの? という感じで、真面目に勇者を選ぶ心境ではなかったのだ。
しかし、それは一変する。
勇者を選んだ翌日、黒い雨が降り注いだ。
その報告があったのは、王都から少し離れた小さな村だったが、その村の作物は枯れ、長く雨にあたった者の皮膚を爛れさせた。
魔王の仕業かもしれないと言われ、わたしは勇者達とその村に向かわされた。
そこは、話に聞くよりも酷い状態で、言葉も出せず、わたしは衝撃のあまりポロポロと涙を零した。
涙の雫が地面に落ちると、枯れていた草が青々と輝きだす。
「聖女様のお力だ」
勇者の一人が呟く。
第二王子はわたしの涙を手で拭い、それが乾かぬうちに、黒い雨のせいで肌が爛れた者へ塗り付けた。
「奇跡だ」
みるみると正常な肌へと戻っていく現象に、周囲は沸き立つ。
わたしを見る目が崇拝へと変わった瞬間だった。
しかし、作物はもちろんだが、被害者はまだいる。
たくさん水を飲まされ、悲しいことを考えてと言われたが、そう簡単に涙は出てこない。
赤味がかった金髪に濃い青目の勇者が「俺の話を聞いてもらってもいいですか?」と言ってきた。
今? なぜ? とは思ったものの、わたしはこくりと頷く。
「俺には、五歳下の弟がいて、母の妊娠を知らされた時は嬉しくて、体にいいっていつも言われていた庭の果物をあげたんです」
母親は「あなたが食べなさい」と自分は口にせず、毎回、勇者にその果物を返していた。自分も好きな果物だったから、母は毎回遠慮してそうしてくれているんだと思っていた。
だから、料理人にお願いして、ソースにしたりテリーヌにしたりして、こっそり母の料理にたくさん使ってもらったそうだ。
そうして、栄養をたっぷり摂っていたはずの母から生まれた弟は奇形児だった。
弟に愛情を注ごうとする母ではあったが、正常に生んであげることが出来なかったと嘆き悲しみ、次第に寝込みがちになる。
父は仕事が忙しいと家にはほとんど寄り付かず。
笑い声の無くなった家庭で育った勇者は、それでも少しでも何か解決方法があればと医療の道へと進んだ。
その結果、母のためを思って料理してもらっていた果物は、妊娠期に摂取し過ぎると奇形児が生まれる可能性があると知った。
食べ過ぎなければよいので、母も料理人にわざわざ使用しないようにと指示はしていなかったその果物が原因だったかは、本当にはわからない。
「母の部屋からは時折狂ったような笑い声と泣き声が聞こえて、父はもう何年も顔すら見ていない。俺は申し訳なくて目を反らして逃げ出してしまいたいけれど、独り立ちできない弟をあの家に置いていくことも出来なくて」
勇者は「ハハ」と乾いた声で笑った。
「俺のつまらない話で聖女様を泣かせることが出来た」
そうして集められたわたしの涙で、その村は全てとは言えないが快方へと向かった。
聖女の涙で回復したことにより、黒い雨は魔王の仕業だと結論付けられた。
それから同じようなことがある度、わたしと勇者は現地に赴くことになる。
わたしの涙を流させるためかのように、勇者達はそれぞれ悲しみを背負っていた。彼らの生い立ちや懺悔を聞き、わたしは涙を流す。
それでも涙が足りない時に万が一の可能性にかけて、わたしの汗や尿まで採取すると言われたこともある。しかし、被害を目の前にすると拒否することも出来ず、わたしは屈辱の涙を流すことで、それは回避することが出来た。
黒い雨が降る頻度が、降る量や面積が増えていった。
しかし、魔王からの被害に対する対策は今のところ聖女の涙だけ。
わたし達は必至で過去の聖女関連の資料を集めた。
「どの文献にも具体的な退治方法が書かれていない」
「けれど、毎回魔王は倒されているんだ。なにか方法が」
城の文官も勇者も、眼の下に隈を作って夜通し調べた。
半年に一度程度だった雨が降る頻度が上がっている。
「この本が解読できれば」
勇者の一人が持っていたその分厚い本を、わたしは手に取る。
ここにいる識者の誰もが読めなかったそれは、日本語で書かれていた。
「『七色の勇者と聖女のガチ恋♡魔王討伐 ゲームガイド』?」
ふざけたタイトルだ。
わたしは無言でページを捲った。ハートや肌色の多いその本は、『七色の勇者と聖女のガチ恋♡魔王討伐』という女性向けエロゲーの攻略本だった。
年齢イコール彼氏なし、の陰キャ女子高生だったわたしには正直ツライ内容だったが、そんなことには構っていられない。
わたしは膝から崩れ落ちた。
わたしは『七色の勇者と聖女のガチ恋♡魔王討伐』というゲーム世界に転移してしまったのだ。
本来は髪や目や属性、種族、様々な勇者候補の中から色違いの七人を選び、魔王を倒す旅に出る、という設定だった。
わたしが勇者選別の条件に色を指定してしまったばっかりに、金色青目の勇者だけ、という異様な状態にしてしまった。
スマホで簡単にできる可愛いキャラクターを積み上げる系のゲームしかしていなかったわたしでも、これは難易度の低いゲームだということがわかる。
簡単にクリア出来るかわりに、攻略できる人数を増やしているようだ。
七人の勇者を選ぶとはいえ、百人以上勇者候補がいるということは、その人数分だけストーリーがあるということで、その多岐にわたる恋愛を楽しむのがメインなのだろう。
本来は、黒い雨が降った地域で、聖女が勇者の手で絶頂を迎えると聖なる雨が降り注ぎ、その地は除染されたという。
それを、わたしは涙を流すことで対処してきたらしい。
本来の解決方法に、わたしはゾッとする。
好き好んでやるゲームならいいかもしれないが、勝手に転生させられたわたしには地獄ではないか。
この本が日本語で書かれており、この世界の人が読めなかったことに心底安堵する。
もしこの本を先に読まれていたら、今頃わたしは性奴隷のような扱いだっただろう。
それと同時に、納得もした。
魔王が世界を滅ぼすとか言うわりに、被害がこの国限定で、聖女が現れるのもこの国だけ。
たぶん『世界』と銘打つことで勇者候補に他国出身者や他の種族を入れたかったのだろう。
きっとこの点はゲーム発売後になぜ一国のみの展開なのに世界が出てくるのだ、と矛盾を叩かれたに違いない。
それはさておき、このゲームのクリア方法を探す。
聖女が魔王を性技で絶頂させることにより、聖なる力が世界中に降り注ぎ、世界は愛に満たされて救われる。
はぁ!? エロゲーかよ!!
とツッコミたくなったが、エロゲーだった。
わたしはさらにページを捲る。
魔王の正体は、第二王子????
もともと正統な後継者である第一王子、頭脳明晰で優秀な第三王子の間に挟まれた第二王子は落ちこぼれ王子と言われていたらしい。
勇者候補に入るが選ばれることなく(わたしは選んでしまったけれど)、鬱屈した思いは膨れ上がり、魔王として覚醒する、というストーリー。
本から顔を上げると、心配そうにこちらを見る第二王子と目が合う。
見知らぬ世界に転生してしまったわたしに、優しく寄り添ってくれたのは彼だった。
わたしに涙を流させるため、情けない王子だと自分の話をしてくれた。
涙が枯れてしまったわたしを泣かせるために、他の勇者に自分を殴るようにお願いして「そんなこと止めて」と彼らに縋り付いてわたしは泣いた。
元の世界を思い出してこっそり泣くわたしをみつけて、無駄な涙を流すなとは言わず抱きしめてくれたのはこの人だった。
この世界に来て、もう五年が経った。
「二人で旅に出ましょう」
勇者全員を公平に扱っていたわたしは、この時初めて、第二王子を誘った。
王家所有の別荘の近くまで、勇者全員と旅をして、別荘には第二王子と二人きりで行く。
そうして、彼の中から魔王は消え去り、聖女を愛するただの男になった。
夜明けとともに輝くような霧雨が降り、鮮やかな七色の虹がかかる。
この世界に来てからずっと淀んでいた空は澄み切った青空に変わる。
空を見上げた誰もが、この世界から魔王が消えたことを知っただろう。
けれど、魔王を倒したと国は沸いたが、勇者達は困惑していた。
世界滅亡や魔王討伐といった極限の精神状態で聖女であるわたしの傍にずっといたため、彼らは聖女依存になってしまっていた。ゲーム攻略本に書いてあった『聖女の祝福』という洗脳状態になってしまった可能性もある。
聖女一行チームは解散と言われたことにより彼らは不安定になり、わたしの姿が見えないと泣き出したり喚いたりする者もいた。
ゲームの攻略本には、勇者の過去を聞くことにより、その勇者とのラブエンドに繋がる、と書いてあった。
そして、勇者全員の過去を聞き受け止めることにより、逆ハーエンドになる、と。
そんなつもりはなかったのに。
わたしの涙を流すために語ってくれた彼らの過去。それは逆ハーエンドへと繋がってしまったというのか。
しかし、勇者達は実家では家族に虐げられていた者や過酷な労働環境に身を置かねばならなかった者ばかり。家に帰すよりもわたしの傍で勇者だったことを誇りに生きていけるほうが幸せかもしれない、と思う。
国王の前での凱旋報告の日、わたしは勇者全員を愛していることを宣言した。
彼らが望むのであれば、全員との結婚を許してほしいことを願い出た。
一夫一妻制のこの国ではそれはなかなか認められず、それが認められる前に、第二王子が我慢できずにわたしとの結婚を進めてしまう。
その祝いにと、第二王子は勇者全員にいったん帰郷することを言い渡した。妻となったわたしを独り占めしたかったのだろう。
けれど、故郷に戻ることが幸せとは言えない者ばかりだったので、わたしは勇者達に、凱旋報告をしたらすぐに帰ってくるように、聖女命令だと強く言った。
これで、戻った実家で引き止められても、わたしの元へ帰ってくる言い訳がたつだろう。
しかし、勇者の一人はわたしの元へ帰って来ることはなかった。
その勇者の家も複雑な家庭環境で、愛する婚約者だけが彼の救いで、いつも彼女の傍にいたくて自分の家にはほどんど帰らなかったと聞いていた。
一時帰宅した実家から戻ることを妨害されているのではと不安になって何度も手紙を送ったが、返事は曖昧な言葉ばかり。
突然、結婚式の日取りが決まったと知らされ驚きもしたが、嬉しくもなる。
きっと彼は抱えていた苦悩を乗り越え、愛する人と結ばれるのだろう。顔を見て一言お祝いを言いたかったが、あいにく駆けつけることは出来なかった。後から、勇者の一人が心配して会いに行ったと聞いた。
そして彼が結婚したその日、聖女と勇者の多夫一妻が例外的に認められた。
勇者全員と結婚することが認められたわたしは、一人一人と盛大に結婚式を挙げた。
彼らの周囲に、聖女が勇者と結婚して幸せになることを、聖女にとって勇者が必要であることを印象付けたかった。
彼らがもう過去に囚われずに生きていけるように、彼らの生きる場所はわたしの隣だと、誰もがわかるように。
わたしはわたしに出来る方法で、勇者達を幸せにしようと思う。彼らが過去に囚われず、国を、世界を救った勇者だと誇りをもって生きていけるように。
たとえそれがゲームという創られた世界でも、わたし達は今、ここで生きているのだから。
数ある作品の中から見つけてくださり、読んでくださり、ありがとうございます。
ブックマーク、評価、いいね、どれもとても嬉しいです。
前作「勇者の花嫁はバカなのか」も読んでくださった方へ。
前作でモニカが読んだ文献は、以前の聖女が攻略本を参考に書き残した物です。
聖女本人が思っている以上に勇者達は洗脳状態になってしまっていますが、それは聖女本人はわかっていなかったり。
同じ事柄でも見る人によってそれは変わり、人は見たいものを見る。
それぞれの視点でそれぞれのストーリーがある、と思っています。