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第7話 装備を整えよう!

 ララと冒険者ギルドを出た後、俺たちが向かったのは街の外壁近く、裏通りにある寂れた武器屋だった。

 ギルドの横に随分と豪勢な武器屋が建っていた。てっきりその店に行くかと思ったのだが、ララが向かったのは街の中心から外れたこの場所だった。


「なんでこの武器屋なんだ。もしかして、隠れた名店だったり?」


 店の外観、今にも崩れそうな屋根を見ると可能性は低そうだが……。


「それともさっきの武器屋は質がよくないとか?」


 別の考えを口にする。

 しかし、ララは俺の質問に「え、ええ」やら「まあそんなところよ」などと濁すばかり。

 怪しい、この聖女もしかして金欠なんじゃ……。

 いやいや、まさかね。だって聖女だよ? 

 ゲームだったら最強キャラ、アニメだと主役にもなり得る役職。そんな馬鹿な事があっていいはずがない。

 俺は不安に駆られながら腐った木の扉を押した。外観どおり、店内は暗くてジメジメした空気が漂っていた。とても昼前とは思えない暗さだ。


「よう、らっしゃい。どんな奴をお求めだい」


 奥から出てきたのは片目を眼帯で覆ったいかつい男だった――さらに言うと、小指がなくスキンヘッドに傷が体中に刻まれている漢だった。

 聖女が来る店じゃないだろおおぉ!

 ここ十八禁だわ。いや、そういう場所ではないけど……うん、子供が来たらダメな場所ってことは確かだ。


「私……じゃなくて俺とこの娘の武器と防具を頼む」


「予算は?」


「二人合わせて一万マルカ」


 いや、少なっ!

 予想的中、こいつ絶対に金欠だ。というか、一万で装備を整えることなんて出来るのだろうか?

 日本基準で考えると、剣を買うのもやっとなんじゃ……。


「それじゃあ、全身装備ってわけにはいかないぞ」


 予想通り装備一式買える金額ではなかった。


「かまわないわ」


 ララの言葉を聞くと店主は奥へと消えていった。


「なんで聖女が金欠なんだよ!」


 この隙にララを問い詰める。もしかして浪費癖があったりするのだろうか。


「なんでって……聖女なんてそんなもんでしょう」


 はあ? こいつ何を言って――。


「アンタねえ、聖女がこの世界に何人いると思ってるのよ。国から貰える給料なんて食費の足しにもならないわ。聖女は勇者を召喚してお金を稼ぐ仕事なのよ」


 なんだその聖女への価値観は……それじゃあ勇者を召喚する前の聖女はどうやって稼ぐんだ。


「この一万マルカも私が朝から新聞配って貯めたお金なんだから有難く思いなさいよね」


 新聞配達だと、おいおい、社会に出る前の学生かな?

 聖女と言っても現実は悲惨なようだ。

 ララの高慢な口調も今だけは可愛く聞こえる。この暴力女が新聞配達とは……ちょっと見てみたいな。なんて考えていたら野太い声が店内に響いた。


「またせたな、これ全部でちょうど一万マルカだぜ」


 店主が持ってきたのは錆びれた剣一振りにちょっと高価そうな胸当てと甲手、サイズ的にこれはララの装備だろう。

 俺の装備は薄汚れた紫色のローブと魔女が使うような茶色い杖一本だった。杖には血のように深い赤色の宝石が埋め込まれている。


「もしかしてこの宝石みたいのが魔核?」


 魔核というのは魔物の心臓のようなもので一体につき一つ採れる。特に高位の魔物から採れる魔核には膨大なエネルギーが秘められており様々な道具にも使われているらしい。

 もちろん値段も高いので冒険者の主要な収入源になる。ララによると魔核が魔物の討伐した証拠の役割を果たすのだとか。


「そいつは一角兎の魔核だからかなりの上物だぜ」


 一角兎がどんな奴なのか分からないが魔核の大きさも拳大はあるし、品質は良さそうだ。

 それに思ったより量が多い。これ全部で一万とは破格の値段じゃないか!

 触った感じ、ローブの生地も分厚く性能に問題はなさそうだ。実は名店というのもあながち間違いじゃないかもしれない。この杖も重量が軽くて結構いい感じ――んん?

 杖の横っ腹なにやら文字が刻まれている。

 よくよく見てみると「シエル」と書かれていた。それも手書きで。

 俺の頭にとんでもない推測が浮かんだ。いやいや、まさかね。だってコイツ聖女ですよ?

 そんな訳あるはず……コイツならあり得るな。


「これ盗品じゃね?」


 俺は思ったことを正直に口に出してみた。

 それを聞いた二人は――。


「ば、ばかいうんじゃねえよ!」


「そ、そうよ。このお店は超健全なんだからっ」


 はい、アウト、スリーアウト。完全にダメな奴じゃん!

 二人の顔はそれはもう真っ青。ララなんか焦りから口調が女に戻っている。

 否定してるけど絶対盗品だな、これ。職人が自分の名前を彫るほどの逸品とは思えないし、なにより手書き感満載だし。

 聖女が盗品店に出入りって……この世界にモラルって言葉はないらしい。


「はあ、もうなんでもいいや」


 この世界はこういうもの、そう理解しておこう。

 え、盗品を使ったら同罪だって?

 じゃあ俺に丸腰で異世界のモンスターと戦えっていうの?

 そんなん無理にきまってる。


「うんうん、些細な事を気にしちゃあロクな人生遅れないぜ」


 ちっ急に偉そうに語りだしやがって。調子のいい親父だぜ。

 でも、まあシエルさんに感謝して大事に使わせてもらうとしよう……あれ?

 そういえば、俺杖無しでも魔法使えたけどなんで杖なんて買っているんだろう。


「なあ、杖無しでも魔法って使えるのか?」


「もちろんだ。ただ杖があると魔法の威力は高まるし、そもそも高位の魔法は杖がないと発動できない。この剣にも軽くだが杖の役割もある」


 なるほど。この世界では杖は実質必須アイテムみたいなものか。ララの剣のように杖と何かを組み合わせている装備もあるみたいだし、種類も豊富そうだ。


「じゃあ、ララの元々使っていた杖はどうしたの?」


 そう、勇者召喚なんて光の最上級魔法だったはず。


「壊れた。アンタを召喚した時に……安物だったからから」


「…………」


 人生一度きりのチャンス、それをまともな装備も使えずに……。

 聖女ってブラック企業か何かかな?


「そうだ姉ちゃん、これもおまけでやるよ」


 口止め料か知らないが、親父が渡してきたのは懐刀だった。


「姉ちゃん可愛いからな。護身用でもっておくといい」


「あ、ありがと」


 おっちゃんの心意気は素直に嬉しい。けど……胸に視線をやるのはよくないと思うぞ。

 俺も男だから気持ちは分かる。しかし、女になってから気づいたんだが、意外と分かるんだよな。男性諸君、気を付けておきたまえ。


「それじゃあ」


「おう、また来てくれや」


 俺たちはしばしの滞在の後、ルスの森へ向け歩き出した。


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