表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/34

第32話 最悪の結論

「うぅ……」


 暖かい感触が全身を包んでいる。

 あれ? 死んだはずなのに体中の痛みがまだ残っている。

 死んでも痛覚は残るのか、この発見を前世で知れたらノーベル賞くらいは取れたのではなかろうか。あぁ、でも一体どの部門に当てはまるのか皆目見当もつかない。


「ねえ、返事してってば。まさかこんな所で死ぬつもりじゃないでしょ」


 おいおい、まだ聴覚も残っているんだけど。これはノーベル賞もう一つ取れるかも……。


「ぐすっ、私が守るって決めたのに……なんでアンタが先に逝っちゃうのよ」


 重たい瞼の奥に光が見えた。まさか視覚までも死んだあとも存在するなんて……ってあれ?

 試しに口の中を舐めてみる。うん、このなんとも言えないベタつく感じと、鉄のような味。

 間違いなく血の味を感じ取れている。

 くんくん、と鼻をすすってみれば幼少期に嗅いだ土の匂いと、それに混じった汗臭さが鼻を刺激する。

 これ、俺生きてますやん。となると目下の問題は……。


「ごめん、ごめんね。私がこんな世界に呼んじゃって……何も守れない聖女で。謝っても許してくれないと思うけど……ごめんね」


 うーん、死んだ感じになっとるな。生きてますよ、と何食わぬ顔で起き上がるのもなんか違う気がする。

 ララもまさか俺が聞いてるとは思っていないだろうから、本音を吐露してると思うわけで。

 ここで目覚めたら「なんで早く起きないのよ、死ね!」とビンタの一発くらい飛んできそうな気配がビンビンにしてやがる。

 でも、ずっと起きないわけにはいかないし、困ったな。あと力強く抱きしめすぎ。あばら折れそうなんだけど。

 悩むこと数分。結局俺は自分のあばらが無事であるうちに起き上がる決心を固めた。


「ぐすんっ、私はもう……」


「あのー、まだ生きてるんですけど」


 薄目を開けてララの顔を覗く。怒るかもしれない、そう思っていたのだけれど、ララの瞳から大粒の涙がこぼれ落ちた。


「……なによ、起きてるんだったら早く返事しなさいよ」


 ツンとした言葉とは反対にララの顔は涙でぐしゃぐしゃだ。

 ぎゅー、とさっきの倍以上の強さで抱き締められる。正直めちゃくちゃ痛い。けど、暖かい。


「ごめん」


「許さないわ。私すっごい心配したんだから」


 分かってるよ。そんなの顔を見れば、俺を包む温もりを感じれば分かる。


「さっきの魔法がラノヴァ?」


「うん。予想よりはるかにエグい魔法だったな」


「ドラゴンを一撃で葬れる魔法なんて、本当に世界征服できそうね」


「やっちゃうか、世界征服」


「やってしまいましょ」


 ララと目があった。少しの静寂の後、二人顔を見合わせて腹を抱えて笑った。


「あー、笑うと傷が痛むわ」


「そりゃあそうよ。本当によく生きてるのか分からないくらい、酷い傷だわ」


 え、そんなにヤバい状態なのかよ。よくよく見てみれば、ローブが血で滲んでどす黒く変色している。

 これは体中の血管が切れて血が吹き出ているのかも。急いでヒールを唱えて止血する。失った血は戻らず、脱力感はすさまじいが死ぬことはないだろう。


「自分で言うのもなんだけど、よく生きてるな俺。すげー」


 九割くらいの確率で死ぬって言われてたけど案外ピンピン生きていることにびっくりだ。

 けど、体の中から力がゴッソリ奪いとられたような感覚がある。ゲーム的にいえば魔力が尽きかけてるような状態なのだろう。

 さすがにこれ以上魔法を発動してしまったら命を削ることになりそうだ。


「そういえばミストラルドラゴンはどうなった?」


 確実に死んでいるとは思ってるが、もしものことがあるかもしれない。天候を操れるほどの化け物なんだから心臓が二つあるとか、そんなチートがあってもおかしくない。


「死んだわよ。アンタの魔法で全身吹き飛ばされてね」


 ふぅー、あぶない、あぶない。いくら理不尽が詰まったこの世界でも限度はあるようだ。

 しかし、ドラゴン退治をE級のうちにしてしまうとは……自分で自分の才能が恐ろしいぜ!

 これで少なくとも昇級試験を受けるポイントは貯まったはずだ。しばらく体を休めて、なんとか体を起こす。

 辺りを見渡せば草が焼けこげたり、地面が丸ごとなくなっている箇所があったりと環境破壊すさまじいな。元通りになるには何年単位と時間が必要そうだ。

 この世界に環境保護団体の方々たちがいなくて助かったぜ……。遠くでギルマスやみんながドラゴンの死体に集まっているのが見えた。

 特徴的な長い槍が視界に入る。ジェイスやユーベリカも生きているな。


「ほんっと憎たらしいくらい強かったな。ジェイスのスキル、チートすぎるわ」


 特徴的な長槍を見ながらなんとなく口を動かす。


「なんたってドラゴンの翼に穴を開けちまうくらいなんだから……ちょっと待て……」


 見覚えがある。ジェイスが開けたあの綺麗な穴を確かに俺は見たことがある。

 ……ジドの遺体で。

 突如として、全身から汗が吹き出る。震えや悪寒、胸の鼓動がかつてないほど高まる。全ての点が線となり、最悪の結論が導き出された。


「逃げるぞ」


 ここにいてはいけない。


「寝ぼけてるの?もうドラゴンは死んだわよ」


 違う、そうじゃない。俺たちの敵は魔物だけではないんだ。

 遠くで悲鳴が聞こえた。

 ギルマスの体を細長く、鋭利な影が貫くのをはっきりと目が捉えた。もう彼らは助からないだろう。あの距離で、味方だと思ってた奴が牙をむく。

 そんなの考えられるわけがない。予測しようはずもない。

 最悪の結論が導き出される。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ