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第21話 友の死②

「別れの挨拶は済んだかしら」


 後ろからエリーの声がした。俺は静かに眠る二人から目線を切り、背後を向く。


「ええ」


「それではお願いがあるのだけれどこの人たちの遺体を綺麗にしてくれないかしら」


 日本でも仏さんにメイクする人はいたが、それと一緒だ。やはり最後くらいは綺麗な状態で送ってあげたいと思うのが人の性なのだろうか。


「了解」


 俺はそっとジドの体を覆う布を取った。腹部を見れば大きな穴が空いている。

 顔に擦り傷やところどころ青あざになっている箇所はある。

 しかし特別目立った外傷はそこしかなく、この一撃が致命傷となったのだろう。あまりに痛ましい傷に目を背けたくなる。

 しかし、俺は聖女なのだ。こんなところで下を向くわけにはいかない。


「ハンスも一緒に治してあげましょう」


 ララがそう言ってハンスに被せられた布をめくった。そこで、とある違和感を感じた。

 驚くべきことに、ハンスの遺体にも同様の傷があったのだ。腹部に一発大きくえぐられた穴。

 逆に言えば、そこ以外致命傷と思える傷はなかった。ジド同様に青あざや擦り傷程度。


「なあ、オーガって何か武器を使う魔物だっけ?」


 オーガは人型の魔物だ。腹部を貫通させられるほどの爪や牙はないはず。だとしたら武器でも使わなければこんな傷跡ほ残せないだろう。

 だが武器を扱うオーガの情報は聞いたことない。


「いいえ、使わないわよ。まあそこら辺の木を引き抜いて振り回したり、岩を投げるくらいじゃないかしら」


 念の為聞いた質問の返答は予想通りノーだった。こんな時に何を聞いているんだ、そんな目線をララから受け取った。

 俺も早く治してあげたいさ。けど、そうしたら何か大事なことを見落としてしまうかもしれないんだ。


「もう一つ質問、オーガは決まった方法で相手を殺すのか?」


「そんなどうでもいいこと……」


「頼む、本当に重要なことなんだ。教えてくれ」


 気色ばむララをなんとか宥めて、答えを待つ。


「いいえ、オーガにそんな習性はない。必殺技のような特別な技を使うこともないわ」


 俺の予想、それもとびっきり胸糞悪い予想の信憑性がどんどん増してきた。

 本で読んだ知識だとオーガはパワー系の魔物で相手を殴打したり、叩き潰すような戦いをするはず。

 わざわざお腹に穴を開けて殺す意味があるのだろうか。


「最後の質問だ。オーガは本当にⅮランク冒険者十人以上より強いのか?」


「アンタ、もしかして」


 ララも俺の予想が分かったのだろう。

 愕然とこちらを見つめてきた。


「ジド達はオーガに殺されたんじゃない。別の何かにやられたんだ」


 もはや俺はそう思えてならなかった。


「でも、そんな危険な魔物がこの近辺にいるのかしら?」


「最近魔物の出現が活発化している。とんでもない化け物が出てもおかしくはないだろう」


 ホホリクも本来この近辺には居ない魔物だし、この街が初心者向けと考えるのはマズいのかもしれない。


「お腹を綺麗に貫通させて殺す魔物……だめだ。思いつかない」


 帰ったらすぐに本で調べなければならないだろう。追加でもう一度ジドとハンスの遺体を調べてみる。

 しかし、これ以上何か情報が得られることはなさそうだった。


「何してるの? 早く二人を治してあげて」


 一向に動く気配のない俺を見て、エリーから声がかかる。

 このことをエリーに伝えるべきだろうか、そう思ったが根拠不十分な話を彼女に話すのは気がひかれた。


「ヒール」


 仕方なく遺体の損傷を消す作業を始める。魔法によって傷は素早く消え去った。ただ彼らの顔に赤みが戻ることはない。

 ゲームみたいに何回でも死んでいいなんてことはない。この世界では一回でゲームオーバーなんだ。

 俺は並べられた死体に魔法をかけていく。ジドのすぐそばで横たわった遺体にも同様の傷がある。

 しかし、その隣の遺体だけは少し様子が違った。


「お腹に傷がない……?」


 それまでの法則を覆すように彼の遺体には穴がなかった。


「この方は随分激しく戦ったようね」


 ララの言葉通り、遺体は激しく損傷していた。特に顔に至っては何かに殴打されたみたいで、パンパンに腫れていた。


「この人だけは本当にオーガと戦ったみたいだな」


 まるで一人だけ別の場所で戦っていた、そう思えるほどに不自然な傷だった。


「やっぱりオーガにやられたのかな」


 確信を持てていた予想が揺らぎ始める。


「だけど、こちらの方はジド達と同じ穴があるわ」


 そう言ってララは別の遺体を指差した。


「どうなっているんだ?」


 治癒魔法で傷を治しつつ、遺体を観察していく。そこで分かったのは、全体の八割ほどの遺体には腹部に大きな穴が空いていること。

 一方、残りの二割ほどの人達はオーガによるものだろう傷が致命傷となっていた。


「別々の魔物を相手にしていた、とかかしら」


 眉間に皺を寄せて、ララが考えを述べる。全く異なる傷を持つ遺体たち。一体なにがどうなっているのか、ただただ頭を抱えるしかなかった。

 俺が思考の渦に囚われていたその時「なっ」と急にララが声をあげた。

 ララが視線をやる方向に顔を向ける。ギルドの入り口に居たのは、俺が今一番嫌いな奴らだった。


「ユーベリカ様とジェイス様がいらしたぞ!」


「なんと!」


 二人が現れただけで、静まり返っていたギルドにわずかな明るさが戻った。まさしく勇者と聖女。

 俺が思い浮かべていた、ゲームの中の存在と言えた。


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