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第20話 友の死①

「……さい。起きなさい!」


 ドタドタと騒がしい音に目が覚める。

 身体を起こすと寝巻きにびっしょりと冷や汗が染みていた。


「あれは夢、それともこの身体の記憶?」


 夢にしては鮮明すぎた気がする。クララやエルティアさんとか。

 会ったこともない人が夢に出てくることなんてあるのだろうか。ポツンと雫が落ちた。

 濡れた頬をたどれば目元にたどり着いた。夢で赤ん坊になって泣いていたが、現実でも泣いていたらしい。


「ラノヴァ、だっけ」


 よし、夢の内容はちゃんと覚えている。

 それにしても珍しいな。ララが俺より先に起きているとは。


「早く着替えて!」


 ベッドの上でくつろぐ俺に刺すような声が飛んだ。ララの方を見ると彼女の顔はゾッとするほど険しかった。

 只事ではない、嫌な予感がした。


「どうしたんだ?」


 ベッドから抜け出しつつ尋ねる。


「ジドとハンスが死んだ」


 短い一言。ただその言葉に脳天を撃ち抜かれた。


「え?」


 言ってる意味が分からない。いや、分かりたくなかった。


「二人とも死んだ。オーガにやられて」


 感情のこもっていない声で繰り返される。


「この前まで二人とも生きていたのに?こんなの……あまりにも」


 現実味がなかった。だって俺の脳裏には笑顔の二人の姿が焼き付いているから。


「早く用意しなさい。ギルドに行かないと」


「そこに二人もいるのか?」


 俺の問いにララは頷いた。もしかしたら、ギルドに行けば生きてる二人に会えるかもしれない。

 死んだなんて情報は誤りだったって。そう思えるほど、実感がなかった。

 着替える時、手が震えてボタンを何度も掛け違えた。乱れた髪そのままに俺は部屋を出しギルドに向けて走り出した。


「ララ! それにケン君も」


 ギルドに入ってすぐ、エリーが声をかけてきた。

 だが、返事をする余裕もなかった。


「なんだよこれ……」


 いつもは喧騒なギルドがやけに静かだった。そして何より異常だったのは床一面に敷かれた布。

 布の上には顔を布で覆われた人たちが十人以上横たわっていた。まるで置物のように微動だにせずに。

 その周りでは呆然と立ち尽くす人、泣き喚く人、様々な人がいた。ただ共通しているのは全員の顔から絶望感が漂っていることだけ。

 まるで地獄のような光景だ。


「本当に全滅したのか」


 ララの顔はずっと無表情だった。それは何も感じていないということではない。

 むしろ感じることが大きすぎて受け止めきれないんだ。


「オーガが相手だとしても充分な戦力だったはずなのに……ギルドの不手際だわ」


 エリーは唇を噛んだ。

 彼女はギルドの職員として、ランクが格上の依頼を受ける許可を出したのだから責任を感じているのだろう。


「そんなことはない」


 ララがエリーに声をかける。


「Dランク冒険者が十人以上いたら流石にCランクの魔物でも狩れるはず。少なくともそう考えるのは妥当だ」


 そうだ、相手はCランクといえどもオーガ一体。戦力的には充分足りていたはず。

 この人数を全滅させるなんてオーガにしては強すぎる気がする。


「そう言ってくれて少し救われたわ。ありがとう」


 ララに向かってエリーは軽く頭を下げた。


「ジドさんとハンスさんとは仲良かったわね。二人に挨拶するかしら?」


 俺たちは同時にコクリと頷いた。それを確認してからエリーは遺体の元へ歩き出した。


(人って死んだら本当に動かなくなるんだ )


 それは小学生でも知っていることだろう。しかし、現実として視界に映るとまた違った感覚だった。

 思ったよりも呆気なく、皆眠っているみたいだ。

 前を歩くエリーが二つの布の前で立ち止まった。


「ここよ」


 それ以上は何も言わず、エリーは一歩下がった。顔が布で覆われていて誰かは分からないはず。でも、なんとなく分かってしまった。

 そっと指先で布を剥がす。

 見えたのは、バンダナを巻いて安らかに目を閉じたジドの顔。


「うぅ……」


 いつもより青白く、脱力して横たわっている。そんな彼を目の当たりにして俺の全身はワナワナと震えだした。

 それは自分が死ぬことへの恐れ、ゲームオーバーではなく本当に死がやってくるという実感からか。それともこの世界で出来た数少ない友人との別れのショックか。

 俺には分からない。


「行く道をシルファ様が照らしてくれますように」


 横でハンスの遺体を見つめていたララが胸の前で手を組んで祈った。これがこの世界の弔い方なのだろう。

 俺はこの世界の神様、シルファって奴が大っ嫌いだ。俺をこの世界に呼んでおいて、散々な扱いをされてきた。

 しかし、二人の信仰する女神の弔い方で送ってあげるのが道義な気がする。


「行く道をシルファ様が照らしてくれますように」


 見よう見まねで胸の前で手を組む。


「この世界に来て不安だった。けどジドとハンスがさ、普通に友人と接してくれて……なんか安心したんだよ」


 ほおを伝う涙は止められない。


「この世界でも友達と馬鹿話できるんだって。前を向かせてくれてありがとう」


 もっと言いたいことはある。

 しかし、これ以上口を開くと離れられなくなってしまう気がした。

 それでも最後に一つだけ言っておかなければならないことがある。


「いつか必ず仇を討ってやるからな」


 ランクを上げて、オーガを見つけ出してこの手で葬ってやる。今は底辺を彷徨う冒険者だけど、いつか力をつけてジド達の無念を晴らさなければならない。


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