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第2話 ここは異世界?①

「……んっ」


 真っ暗だった俺の視界に徐々に光がさしてきた。

 まさか死後の世界? だとしたら天国か、地獄どちらだろう。

 あんな死に方したんだ。後者だったら閻魔に抗議してやる。こちとら反論根拠は充分あるからな。そう意気込んで目に力をいれる。

 しばらくして、だんだん辺りの眩しさに目が慣れてきたとき、まず目に飛び込んできたのは綺麗な純白の壁だった。

 よかった、神様はちゃんと俺の善行を見てくれていたようだ。俺は正月以来久しぶりに心の中で手を合わせた。

 これからは天国で悠々とした暮らしを……そんな今後の人生、というか死生? が頭をかすめた時俺はある異常に気づいた。


「これは……魔法陣?」


 真っ白な床に描かれているのは三角や四角、そして星型が綺麗に混じり合った、まさにゲームで見るような魔法陣だった。

 ここは本当に天国だろうか。よくよく周囲を見てみると想像していた雰囲気とはかけ離れている。

 俺のイメージでは天国はふわふわとした、まるで雲の上のような空間だと思っていた。

 が、今俺が立っている場所はなんていうかな……そう、がっしりとした重量感があるのだ。

 目の前の壁なんかも石で造られているような重厚感を帯びている。

 極めつけに俺の体がずっしりとまるで地に足がついているかのように重力を感じている。

 これはひょっとして……。


「もしかして俺死んでない……?」


 俺はこの時の幸福、ドーパミンが溢れ出す感じを生涯忘れないだろう。

 それに、この展開は――。


「これは、もしかしてのもしかして今話題の異世界転生ってやつ?」


 通り魔、交通事故で死んだ学生は異世界に送られるとアニメで習ったぞ。

 だとしたら最高だ。俺はゲームやアニメをそこそこ見てきた。そして知っている。

 異世界に転生した人間っていうのはチートもりもりの顔面最強。勝ち組人生が約束されていることを。


「あ、この場合は異世界転移っていうのかな。だって俺という人間はなにも変わって……」


 そこまで喋ったところでとてつもない違和感が俺を襲った。

 ん? なんか声がおかしくないか。なんだかいつもよりトーンが高い。

 何気なく俺はそっと喉に手をやった。


「……俺の喉仏どこいった?」


 思春期以来俺の喉にひっついていた相棒がいない。

 えー! もしかして喉仏だけ元居た世界に置いてきてしまったのか?

 だとしたら、未だに喉仏だけゆうじの腕に抱えられたまま……。想像したらとんでもない地獄絵図が頭をよぎった。

 落ち着け、落ち着くんだ俺。そんなミスあるはずがない。牛丼屋に行ってマカロンが出てくるくらいあり得ないぞ。

 それにだ、例え喉仏だけ取り残されていても、どうせあのイケメン君に会うことはないんだ。ふー、一旦深呼吸だ。こういう時まずは胸に手をやって……。

 再びの違和感。

 むにゅっと手が沈んだ。

 え? むにゅ?


「……ってなんじゃこりゃー!」


 そこには俺にあるはずがないものがついていた。もっと言うと男には決してあるはずがないもの。

 ……おっぱいだ、それも結構大きい。

 男にだって胸はある。けどこれは間違いなくおつのぱい先輩だ。


「いやいや、ほんとに?」


 俺はより詳しく調査するために胸を揉んだ。そう調査のためにね!

 断じて下心などではない。


「ほほう、これは中々」


 触り心地良し。形もよさげだ。特に大きさに至ってはあまりに大きすぎることもなく、全く無いというわけでもない。

 大きさは二重丸っと。これは今後の人生の相棒になるものかもしれない。より入念な調査を……。

 そこで俺はとある最重要問題に気がついた。もう一つの相棒はどうなってる?

 俺の人生において苦楽を共にしてきた真の相棒。

 あいつは俺の息子と呼んでも差し支えのない、家族のようなものだ。失うなんてことはあってはならない。俺は恐る恐る相棒(股間)へと手を伸ばす。


「ない!嘘だろ、おいおいもしかして息子もまだ向こうの世界に……」


 ちんこまでもがゆうじの腕の中に抱き抱えられているというのか!?

 喉仏とちんこを抱えて救急車を呼ぶ男……考えるのをやめよう。彼の人生に幸あれ! 

 それにしても、胸が邪魔でよく見えんな。もしかしたら俺のシャイボーイは奥に隠れてしまっているだけかも知れない。

 そりゃあ異世界に飛ばされたんですもの。お前だって不安よな。


「大丈夫、出ておいでー」


 俺は優しく呼びかける。

 しかし、返事は(もちろん)ない。

 仕方なく俺は顔ごと股に持っていく。必死に体を曲げると股のぞきのポーズみたいになった。

 そうして見た股の向こう、つまり俺の背後にはあり得ない光景が広がっていた……。

 俺が倒れていた。何を言っているか分からないだと?俺も訳が分からん。


「俺ー! てか死んでるうー!」


 腹は真っ赤に染まっていた。てか、ナイフ刺さったままだ。

 喉仏とちんこは置いてきてナイフは持ってくるだと?

 さすが神様、頭のネジが二、三本抜けてしまっているぜ。


「とりあえず、救急車……ってここ異世界だわ。誰かー、誰かいませんかー。俺……じゃなくて異世界から来た勇者が倒れてますよー。世界救う前に死んじゃってもいいんですかー!」


「…………」


 ダメだ、返事がない。ただの屍のよう……ってんなことあってたまるか!

 とりあえず応急処置を……だめだ、包帯すらない。それに医者でもない俺に出来ることなど限られてる。

 一介の学生に過ぎない俺がこの重症を回復させることなど天変地異が起こってもあり得ない。

 一瞬で腹の底が冷え背筋にゾッと悪寒が走った。目の前に横たわるのは確かに俺だ。

 じゃあ、俺は一体誰? そんな疑問を感じることすらなかった。

 目の前に人が血を流して倒れている――この状況が俺の思考力を根こそぎ奪い取っていた。

 とりあえず倒れている俺の心臓に手をやる。震えて上手く胸に手をおけない。

 ブルブルと震える右手を左手で必死に押さえる。そして全神経を手のひらに集中させた。

 ドクンッ、と確かな振動が俺の手に伝わる。よかった、まだギリギリ生きてる。


「でも、こっからどうしろと……」


 しかし、俺の真っ白な脳内からアイデアが浮かんでくるはずもなく……《《ヒール》》。

 理由もない、どこから出てきたのかも不明。ただ俺の脳に一つの単語が思い浮かんだ。

 それは俺の記憶というより、体が覚えていた記憶といった方が正しいのだろう。そんなアニメみたいな展開あるはずがない。理性はそう訴えかけてる。

 だけど……もう俺はこれに縋るしかないんだ!


 手をかざす。そして体中の全ての力を出し切るように俺は叫ぶ。


「ヒール!!」


 まばゆい閃光が部屋を満たす。そして持てる力全てを使い果たした俺はまたしても意識を暗闇に投げ出した。


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