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第18話 可愛い魔物

「こっちだ」


 ララが低い声でジド達を呼ぶ。


「いやー、まいったよ。思ったよりも川まで遠くてさ」


 ハンスもぐったりした様子で「無駄な体力を使っちまった」とうめいた。


「わざわざありがとうございます……この時間でだいぶ回復しました!」


 水筒を受け取りつつ、立ち上がる。一瞬よろけそうになったが、気合で踏ん張った。


「よし、それじゃホホリク狩り続行だ!」


 ジドの掛け声とともに俺は腰をあげる。

 そして休憩から一時間ほど経っただろうか。再び足は悲鳴をあげていた。

 しかし、足を止めたら余計しんどくなるだろう。心配そうな三人を尻目に俺はズカズカと森を進む。

 太陽が空を真っ赤な海に変える頃、俺たちはようやく獲物を見つけた。最初に気づいたのはハインだった。


「止まれ!」


 緊張を含んだ硬い声に俺たちは一斉に足を止め、体をかがめる。


「前方の大木の影に見えた。おそらくホホリクだと思う」


「了解。俺たちは万が一に備えて逃げ場をふさぐ。ララちゃんは正面から一撃頼むよ」


 ジドが手早く指示する。そして去り際にウインクして、ジドは裏に回った。


「できるだけ近くまで距離を詰めるわよ。不意打ちなら躱されることもないでしょう」


 ゆっくりと、敷き詰められた落ち葉で音を立てることがないよう俺たちは進む。

 あの木の裏には本物の悪魔がいる、そう考えるだけで酷く憂鬱に、再び胃から昨日の飯が逆流しそうになる。

 思わず立ち止まりそうになった時、優しい温もりが俺の手を覆った。


「え?」


「……なによ?」


 重なる二人の手。俺を引っ張るようにララが前を歩く。意外と俺の手ってゴツゴツしてたんだな。

 自分が他人になる、この状況になって初めて気づいた。木々を掻き分け、ついに悪魔が姿を見せた――。


「えっ、あれがホホリク?」


 俺の口は自然と動いていた。

 なぜならそこに居たのは恐ろしい悪魔ではなく、猫だったのだから……。

 俺の頭がおかしくなった訳ではないぞ。本当に猫なんだよ。

 いや、背中にちょっぴり羽が生えてるが、それだけだ。真っ黒な毛に光る黄色い目。そしてまんまるな愛らしい体躯。

 ハタハタと宙を浮かぶ姿は見てるだけで癒される。


「え? 殺せないんだけど」


「はああー? 何言ってるのよ」


 意味が分からないと、ララにおっかない顔で睨まれた。しかし、俺の意思は固い。


「いやいや、あんなに可愛い猫ちゃん殺したら何らかの愛護法に抵触するって!」


 この世界では分からないけど……でも前世だったら間違いないね。


「まったくっ、アイゴ法なんて法律ないわよ」


 ヒソヒソと木陰で話しているうちにもホホリクはぷかぷかと動き回っている。このままどっか飛んでいってくれ!そう願った時ララが独り言が耳に入った。


「ホホリク倒したら八万マルカ貰えるのになあ」


 わざとらしく、大袈裟に発せられた言葉。俺の背に電流が走る。

 まてまて。八万マルカだと?

 つまり一人あたり二万は入る計算だ。俺は素早く脳に搭載してあるスーパーコンピュータ(自称)を稼働させる。

 二万あれば、一週間は良い物が食べられる。いや、落ち着け。その前に装備を整えて――。


「まあアンタが無理というなら――」


「絶対殺す。俺は世界を救う勇者だぞ? 人々を守るためなら悪魔に魂売ってやる!」


 そう、俺は世界を救う勇者なのだ。仮に愛らしい猫ちゃんであっても、涙を飲んで討伐しなければならない。

 やれやれ、勇者は大変だねー。


「お金に魂売ってるの間違いじゃないの?」


 失礼な聖女の言葉には耳を塞いでおこう。


「しっかり一撃で仕留めなさいよ」


 俺は杖を構えて大きく息を吸い込む。そして、結果を想像する。

 発動する魔法はホーリー。悪魔やゾンビ系の魔物のみにダメージを与える光線を作り出す術。

 強い意志を呪文に乗せ、あの猫を葬りさるのだ。


「ホーリー!」


 杖の先端に光が集まる。キラキラと漏れ出る光。側から見ればさぞ幻想的なんだろう。

 だが、この光に温もりはない。魔を消し去る光線がホホリク目掛けて放たれた。


「グヒャッ!」


「よし、命中したわよ!」


 なんとも可愛らしい声を出し、ホホリクはよろけた。

 光線を喰らったホホリクはモヤモヤとした霧へと変わっていく。


「浄化されてるのか……」


 悪魔が天に召される、中世の絵画にありそうなワンシーンだな。まあ、ホホリクの顔は苦痛に歪んでるんだけど……。

 完全にホホリクが姿を消したのち、木陰からジドとハインが現れた。


「さすが聖女だ」


「一発で仕留めるなんて、ララちゃんすごいよー!」


 ジドは飛び上がって喜んでいた。依頼失敗とならず、ギルドの評価が落ちなくて安心しているのだろう。


「あんなに綺麗なホーリー初めて見たよ」


「見事な魔法だった」


 そ、そう?

 まあ自分的にも完璧な一撃だったし、魔法も発動できたし……。俺って凄い!


「ふっふ、まあ私にかかればホホリクなんて大した相手じゃないですよ」


 はっは、ホホリクなんぞ何体でもかかってこい。神に選ばれた俺様が相手してやるわ!


「調子に乗るな」


 ガツンっと頭に響く一撃。


「いってー。何するんだ」


 召喚された時以来の痛みが全身に走る。

 うぅ、たんこぶ出来た気がする。


「さっきまで震えてたこと二人にバラすわよ」


「うっ……それはヤメテ」


 そんなことされたらカッコいい聖女のイメージが台無しじゃないか!


「はっは、相変わらず仲良いなぁ」


 そう言ったジドはニヤついた笑みを浮かべていた。


「いつか結婚しちまうんじゃねえか」


 バクンッ、何気ない一言。きっと冗談だろうに心臓が跳ねる。

 冗談はやめてくれ、そう思っても口は動かない。


「そんなわけないでしょ」


「おいおい、冷たいねー。こんな美人が相棒なのに何も思わないのかよ?」


「自分の顔みたいなものだし」


 ララの言葉の意味はジドには伝わらなかったのだろう。首を傾げた。


「ケン……じゃなくて、アンタもそう思うよね」


「う、うん。もちろん!」


 スッと心臓のうごきが止まり、熱が冷めた。

 それが正常なんだろうけど……気分は良くない。


「まあ、そういうことにしとくよ」


 ジドの頬はまだ緩んでいた。


「おい、気を緩めるなよ。ここはまだ戦場なんだ」


 足を止めた俺たちへハインの叱責がとんだ。

 そうだ、まだ魔物はウヨウヨいるんだ。

 呑気に会話している場合ではない。一秒後にはナニカの胃袋の中なんてことも充分ありえる。


「よし、とっとと撤収して飲みまくるぞ!」


 意気揚々と街へ帰るジドの後を追って俺も小走りで森を抜け出した。


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