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第16話 魔法のコツ

「いってえええ!」


 響き渡る絶叫。

 近所迷惑、そんな言葉が一瞬脳裏をチラついた。

 しかし、声を抑えられない。


「ちょっと手動かさないでよ」


 ベシッと加えられた衝撃。


「うおおおおぉ!」


 刺すような痛みに芋虫のごとくベッドの上をのたうち回る。俺の右腕はミイラのように包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 コスプレをしている……訳ではなく、昨日の後遺症だ。

 傷口は塞がったが失った血は戻ってこないし、痛みも完全には引いていない。こういったものは魔法では治せないようだ。

 おかげで今日は一日中寝込む羽目になってしまった。

 にしても怪我人の手を叩くとは……こいつって聖女じゃなかったっけ?


「おーい、ララちゃんいるー?」


 夕陽が窓から差し込みはじめた頃、扉がドンドンと乱暴に叩かれた。この高くてハリのある声はジドのものだ。


「やれやれ、うるさい奴らね」


 そっと立ち上がりララが扉を開いた。


「うおっ、なんだそりゃ」


「魔物にやられたのか?」


 二人とも俺の右腕に目をやる。


「魔法の練習をしていたら……失敗してしまいました」


 しおらしく、ドジっ子のように。今の俺は聖女なのだ。

 他の聖女と喧嘩してボコボコにされましたとは言えない。


「へー随分派手にやったねえ」


 ジドの顔は感心半分呆れ半分だ。


「冷やかしならすぐに帰れ」


 ララが冷たくあしらう。


「ごめん、ごめん。今日お前らがギルドに姿見せないもんだから、エリーさんに様子見てこいと言われて……生きていてよかったよ」


 頭をかいたジドは人の良い笑みを浮かべた。


「……その様子だと無理そうだな」


 ボソッとハインが呟く。


「何か用でしたか?」


 その様子だと、ただ見舞いに来ただけではないだろうことは想像できた。


「実はこの前受けた以来の期日が明日までなんだが、かなり手こずっていてな……」

「つまり手伝って欲しいと?」


 ハインは軽く頷いた。素直な性格で助かるよ。


「まあ無理せずとも……」


「協力しますよ」


 ララの目が釣り上がるのが見えた。俺はそっと喋るなと、ララを手で制止する。


「どんな依頼だったんですか?」


「ホホリク一体の討伐だ」


「ホホリク?」


 初めて口にすると、なんとも言いづらい名前だ。

 それにめっちゃ馬鹿っぽい名前だな。俺がホホリクを知らないことを察したハインは説明を付け加える。


「ホホリクっていうのは羽が生えた小型の悪魔だ」


 羽の生えた悪魔だと。正直小型だろうと会いたくはないな。


「そんな魔物ここら辺にいましたっけ?」


 俺の質問にハインが首を振った。だよな、俺も一応冒険者のはしくれ。この近辺の魔物の情報くらいは頭に入れてる。


「滅多に出現しない魔物だね。それだけに報酬はたんまりだ」


 ジドは特に報酬という言葉を強調した。つまりは重要度も高く、ランクも上がりやすい依頼ってことだ。

 しかし、そんな良い依頼なら自分たちで仕留めた方がよくないか?

 当たり前のことだが、人数が増えたら一人当たりの分け前は減り、ギルドからの評価も低くなる。報酬を減らして冒険者としての実力が上でもない俺たちに協力を仰ぐ意味が分からない。


「ホホリクは魔法の耐性が高いんだ。聖属性を除いてね。物理は効くんだけど……羽があって飛んでいっちまうんだ」


 ジドは悔しそうに地団駄を踏んだ。

 なるほど、聖属性を扱える俺はそのホホリクとやらに相性がいいらしい。こうしてジドがわざわざ助けを求めにくるくらいには。


「そこで私の出番だと。分かりました、明日一緒に行きましょう!報酬は半分ずつで」


 俺にはタイムリミットがある。

 依頼によって死地に行くかもしれない。だけど立ち止まったら問答無用で断頭台送りだ。どうせ死ぬんだったら足掻いて死んでやる。


「やったー、本当に助かるよ」


 ジドは両手を上げ嬉しそうに笑った。

 この調子のよさがコイツの良いところだ。そして明日の集合場所を告げ、機嫌良く帰って行った。


「アンタ大丈夫なの? また魔法使えるとは限らないわよ」


 二人が帰ったことを確認して、ララは口を開く。


「絶対使えるって断言はできないけど……多分使えるはず」


 俺だって魔法が使えないのだったら断るさ。けど、昨日の喧嘩でコツは掴めたんだ。

 そのコツは……意志だ。

 多分俺が今まで魔法を使えなかったのは意志がなかったからだと思う。いや、やる気がなかったとかではないよ。

 けど今までの俺は魔法を発動させようとして、結果を引き起こす意志が欠けていた。

 ナビだって終着点が設定されてなければ経路は選択されない。どれだけ過程を工夫したって魔法を発動する、という結果をイメージできなければ魔法を扱えるはずがない。

 俺が召喚直後に魔法を使えたのは自分の体を治すという明確な意志があったと考えれば納得できる。

 最初に結果をイメージしなければ魔法は発動できない……これは勘ではなく肌で感じたこと。

 枕横に置かれていた杖を手に取る。試しに、周囲を明るく照らす光を放つイメージをしつつ「ライト」と唱える。

 すると俺の杖から白色の光球が放たれた。よし、成功だ。


 「ようやくコツを掴んだのね」


 ララは宙をプカプカ浮かぶ球を見ながら、ほっと一息吐いた。

 あとは実践、魔物を前にして発動できれば胸を張って魔法を会得したといえる。明日はいい練習の機会になるはず。


「それにしても、なんで私の説明で理解できなかったのよ」


 ララが八つ当たり気味に足でベッドを小突く。


「やめろよ、ボロいからすぐ壊れるぞ」


「私の物だからいいの」


 子供のような物言いは聖女……じゃなくて勇者の姿にはとても見えなかった。


「金欠なんだけどなぁ」


「明日稼ぐからいいのよ」


 俺のボヤキも暖簾に腕押し、効果なしだ。


「なんとか明日までには治さないとな」


 引き受けておいて、ごめん行けませんとは言えないだろう。

 それに、このまま依頼を受けなかったら餓死しちまうよ。俺たちは陽が沈むまで明日の準備に費やした。


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