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第1話 異世界転生!?

「はああー、やってらんねー」


 口から重い息が漏れ出た。スマホの画面に映るのは「選考結果のご案内」と書かれたメール。


「なんだよ、今後の活躍に期待って。こちとらこれで五十社目だぞ!一体どこで活躍しろと」


 そう、俺はたった今薄っぺらい言葉とともに不採用を宣告されたところだ。

 昨今人手不足やら売り手市場だの叫ばれるが、そんなことはない――あってたまるものか! 

 俺の魅力が分からないこのアホちんなどこっちから願い下げだ。べ、別に強がりじゃねーし。

 脳内を駆け巡った強がりも空しく頭の隅へ消えていく。

 しかし、切り替えるしかない。会社なんか世の中無数にあるんだ。

 未だ内定ゼロという事実が心の安寧を損ないつつあるのだろう。最近はどうも気が短くなっている気がする。


「ふうー、こういう時は深呼吸っと……」


 短気はタバコと一緒。百害あって一利なしだ。

 吸ってー、吐いてー。うん、なんか頭が冷えてきたぞ……って、んん? 

 微かに違和感を覚えメールをよくよく見返す。


「俺の名前違うじゃん!」


 メールに書かれた名前は今井健。俺の名前は今井研いまいけん――流石にここまでの屈辱は初めてだ。

 健と建ならまだ許そう。流石に健と研は間違えないだろ。


「そうですか、そうですか。そんなに俺はいらないってことね」


 再び特大のため息がこぼれでた。夕焼けが綺麗に街を染める中、俺だけ真っ暗だ。

 もうそろそろ大学最後の夏休みが迫る中、未だに内定が一つもないのは周りでも俺だけだ。そんな落ちこぼれの俺の人生を一言で表すならそこそこって言葉がよく似合うのだろう。

 小学校のころからそこそこ勉強ができて、運動も人並みにはこなせた。一人っ子だから親には可愛がってもらったし、高校の野球部では常にスタメン(8番だけど)、ある程度有名な大学にも入った。

 社会の荒波に揉まれようとも、今後の人生も変わらずそこそこに生きるんだろうって思ってたのに……。

 まさか社会に出る一歩手前でつまずくとは。このままでは社会の荒波に揉まれるどころか、部屋でネットサーフィンして暮らす未来が待ち受けている気がする。

 くっそ、なんだか全ての人が自分より上手くいってるようでならない。横を歩く腰が曲がったじいさんもランドセルを背負った小学生もきっと俺よりは良い人生を送れるだろう。

 やばい、涙が出そうだ……。

 ゴシッと目元を拭く。こんな街中で泣いてたまるか。


「ちょっと、ゆうじ!」


 ふと前方で女性特有の甲高い悲鳴がした。叫んだ女性が見つめているのは大層イケた面をした男。

 くそっ俺が一番嫌いな人間だ。ザ・普通の俺の顔と取り替えろ! 

 一瞬で非モテ特有の妬みが爆発した。いかん、いかん落ち着くんだ俺。

 しかし、イケメン絡みのトラブルというと……? 


「違うんだ由美ちゃん。こいつは俺の妹の聡美」


 そう言ってイケメンが肩に手を回したのは派手な格好をした金髪美女。

 ははん、いたぞ。ここに俺と同じく負け犬が。

 どう見ても聡美とゆうじ君の顔は似ていない。流石にその嘘はキツいぜゆうじ。

 俺は思わず立ち止まって成り行きを見守ってしまう。思えばこれが人生最大で最後の失敗だったといえるだろう。


「嘘! 最近既読も全然つかないし、やっぱり浮気してたんでしょ!」


 思わず身震いしてしまう絶叫だった。その細い体からどうやって怪獣みたいな声が出せるんだろう。そう思いつつもこの時の俺はまだ悠長に眺める余裕があった。

 そんな俺とは打って変わり、由美の顔は狂気に染まっていた。

 ゆうじの言葉に耳をふさぎ支離滅裂な言葉を吐き出す。

 不意に由美がジャケットの内側に手を入れた。そして懐から取り出したのは新品同様に光ったナイフ。


「由美、本当なんだ。信じてくれ!」


 ゆうじは必死に訴えかけているが由美の心に届いているとは思えない。

 あ、ヤバいかも。そう思った時、思わず三人の元に駆け寄った。この時の俺は正気じゃなかった。振り返ってみても心底そう思うんだ。

 そんな正義感は必要ないよ、と。


「あのー、ちょっと落ち着いて、ね」


 こういうときは第三者が仲裁に入ると人は冷静になるらしい。むかし古本屋で百円で買った自己啓発本に書いてあった。

 ここは俺がバシッと決めてやらねば。


「おねーさんもそんな物騒なもの振り回したら迷惑にn――」


 俺得意の人に媚びへつらう笑顔で由美を冷静に……と思った瞬間、俺の腹部が燃えるように熱くなった。

 そして、襲いかかる激痛。俺は立っていることさえできずに膝から崩れ落ちた。


「あんた関係ないんだから引っ込んでろ」


 恐ろしいほど冷たい声が注がれる。

 あ、終わったわ。俺は一瞬で理解した。

 だって血が滝みたいに出てるし。なんなら見えてはいけない内臓まで見えてるし。


「おにいさん大丈夫ですか‼」


 この声は恐らくイケメン君のだろう。俺を抱きかかえた彼の声は震えていた。


「誰か救急車!」


 遠くで叫ぶのが聞こえる。呼んだって無駄だよ。俺はそう伝えたいのだが声がでない。

 あぁ、なんだって俺がこんな目に。

 神様、おかしいでしょ! 

 イケメンに生まれた上、美女を二人も侍らせて遊んでる奴が生きてなんも関係ない俺が死ぬなんて。

 流石に来世で特典盛りだくさんだろうな。じゃないと、釣り合いがとれない。

 まず、来世で美人になるのは絶対な。

 それと……ってもう時間がない。

 俺が神様への怒りを吐き出していたその時、突然俺の体が光りに覆われた気がした。

 死にゆく人間が光に包まれるってどこのお伽噺だよ、と突っ込まれそうだが本当にそんな気がしたんだ。

 そして俺の意識はゆっくりと消えた。


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