〜たきな、赤いカプセルを服用す〜
タイトル:『理性の中にある嵐』
Scene 1:午前10時、カプセル服用直後
たきな(無表情)
「論理的に考えれば、ADHD状態を体験することは、“理解力を広げる”一助になります。副作用は制御可能です。私は、自分の神経系を信じています。――では、服用」
チサト(横で心配)
「えぇぇ!? たきな本気!? てか、その台詞がもうフラグじゃん!」
(※服用)
Scene 2:午前10:32、理性の崩壊開始
たきな(突然立ち上がる)
「……世界が、分類できない」
夏美
「わかる!その感じわかる!今この空間にあるもの全部“属性”剥がれてる感じでしょ!?」
たきな(呟くように)
「椅子が……“座る”という機能じゃなく、“木が切られた痛み”として視界に入ってくる。
視覚と意味が、直結しない。感情と情報が、混ざっている。
この状態は……不明。分類不能。エラー。エラー。エラー……」
ひとり(震えながら)
「た、たきなさんが……たきなさんが“自分の名前”3回つぶやいてから無言になったんですけど……」
Scene 3:午後、完全多動・並列崩壊
たきな(ホワイトボードに5つのテーマを同時に書く)
「①時間と構造②サークル予算会計③音楽的共感性④チサトの髪型構成⑤“私”の概念――ああ、待って、全部同時に展開してる、順番がない、思考に階層がない……!」
チサト(爆笑しながらも本気で心配)
「たきな、いったん深呼吸しよ?っていうか『チサトの髪型構成』ってなに!?ねぇ!」
リョウ
「“概念が同時再生される地獄”。かつての友人に似たな。彼は数学者だった」
圭介(静かに)
「これは、“秩序に依存してた頭脳”が、世界のノイズに呑まれた結果だな」
Scene 4:静かなる崩壊、そして涙
たきな(机に突っ伏しながら)
「……私は、“正しくあること”だけを自分の価値基準にしてきました。
でも、今日は全部の基準が崩れて……“わからない”が怖い。
こんなに怖いものなんですね、“自分が誰なのか分からなくなる”って」
チサト(そっと手を握る)
「でもさ、それって“新しいたきな”に出会ったってことじゃない?」
たきな(小さな声で)
「……私は、知らなかった。
“何もできない自分”がここにいたこと……。でも今、それを少しだけ、許せる気がする……」
エピローグ:翌日の記録(たきな自筆)
“私は、タスクと構造と論理で、自分を支えていた。
それがすべて崩れたとき、私は『意味のない世界』に一人で立っていた。
でもその混沌の中には、なぜか“チサトの笑顔”と“皆の声”があった。
私が“機能していない自分”にも価値があるのだと、初めて知った日だった。”