伊地知リョウ、赤いカプセルに沈む〜
Scene 1:服用前
リョウ(無表情)
「音に色はあるけど、触れられない。それって不公平じゃない?」
ひとり(ギターの弦を張り替えながら)
「……えっと、うん。たしかに」
夏美
「そんな哲学やめてさー、これ飲もうよ!これ!“赤いカプセル”!アーティスト魂に火がつくって噂の!!」
圭介(遠い目)
「……やめとけ。脳が、解像度上げすぎて壊れるぞ」
リョウ
「でも、音って、壊れるべきじゃない?」
(※服用)
Scene 2:静寂が“音の洪水”に変わる
(沈黙)
(……しかし、次の瞬間)
リョウ(瞳が揺れている)
「……B♭が…壁に貼りついてる……いや違う、B♭は昨日の匂いだ……え、なに?この空気、6/8拍子で揺れてる?……うるさい、世界が、音になって…音が、意味を持たずに、ただ暴れてる……」
レナ
「多重感覚暴走状態。“音×形×色×時間”の交差。明らかにカプセルの作用」
チサト
「わー!リョウちゃんが、ホワイトボードに楽譜書いてる!しかも上下逆さま!」
ひとり
「え、リョウさんの口がずっと“ファ〜〜〜”って鳴ってる……人間ってあんなにファで息できたっけ……」
Scene 3:即興と崩壊と、沈黙の境界
リョウ(ギターをかき鳴らす)
「コードじゃ足りない……AメロとBメロの間にあった“無音”こそが、本当の感情だったんだ……!」
(全弦ダウンチューニング)
夏美(超笑顔)
「きたきたきた〜っ!天才が覚醒してる〜っ!!」
圭介(低く)
「違う。“編集できない音”に溺れてるんだ。これは“意味が死ぬ瞬間”だ」
リョウ(囁くように)
「……耳がうるさすぎる……世界の“言葉じゃない部分”が鳴りすぎてる……
ねぇ、みんなはどうして普通に存在していられるの?
どうして“音”がこんなに多いのに、平気で黙っていられるの……?」
(そのまま床にうずくまり、天井を見つめる)
Scene 4:終わらない“音”からの帰還
(数時間後)
チサト(そっと水を渡す)
「大丈夫?リョウちゃん、世界、ちょっとだけ音量下がった?」
リョウ(ゆっくりと)
「……うん。たぶん…ようやく、Cの音に戻ってこれた」
ひとり(膝を抱えて)
「わたしも昔、曲が作れなくなって、全部の音がノイズに聴こえたことあります……」
リョウ(小さく微笑んで)
「……たぶん、それがほんとの“音楽”だったんだよね」
エピローグ:リョウのスケッチブックより
“音が“意味”を持った瞬間、音楽は死ぬ。
だけど音が“意味になれず”彷徨ってるうちは、まだ生きてる。
赤いカプセルは、俺の中の“沈黙”を解体した。
沈黙は、音を支える“骨”だった。
今、俺は――“骨のない旋律”の中にいる。”