死は私達を引き離せない。私達は永遠に一つになる。
祖母の呼吸が荒くなった。
「おばあちゃん」
私が泣きながら呼びかける。
しかし、祖母は何も答えなかった。
「お母さん」
「お義母さん」
私の両親がそう言って祖母に呼び掛ける。
それでも、祖母は何も答えなかった。
「逝かないで」
声が涙で歪む。
言葉の体を成していない。
そう、思っていたのに。
「だい、じょ、うぶ」
祖母は返事をした。
「おばあちゃん!」
祖母は苦し気に私を見つめながら言った。
「まえ、に、いった、でしょ?」
その言葉に私は頷く。
ほんの数日前。
祖母は私に言ってくれた。
『私はもうすぐに死ぬ。だけど、覚えておいて。死は私達を引き離せない。私達は永遠に一つになるの。そうやって、私達は生きていたの。だから、恐れないで』
あの言葉を祖母は言おうとしていた。
しかし、死の喘ぎでとても口には出来そうにない。
だから、私は泣きながら祖母の手を強く握りしめた。
私はもう悲しまないって、祖母に伝えるために。
「い、いい、こ」
祖母はそう言って目を閉じた。
それが祖母の最期の言葉だった。
全てを悟った両親はそっとベッドから離れる。
「おいで」
母が呼んだ。
だけど、私は首を振った。
「ううん。まだ、ここにいたい」
私の言葉に両親は静かに頷き、そっとその場を後にした。
一人残った私は大好きな祖母の近くで泣き続けた。
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数日後。
私は祖母が大好きだった丘の上に来て静かに風を浴びていた。
とても心地良かった。
「おばあちゃん」
呼びかけた。
「ここがどこか分かる?」
天を見上げる。
生前、祖母が大好きだったこの場所の美しさを今、私はようやく知った気がした。
「この場所ってこんなに心地の良いところだったんだね」
片手でそっと自分の腹を撫でる。
「これからも時々来るよ、ここに。そうすれば、おばあちゃんも嬉しいでしょ?」
蘇る、祖母の言葉。
『死は私達を引き離せない。私達は永遠に一つになるの。そうやって、私達は生きていたの。だから、恐れないで』
それは私の一族が代々大切に繋いできたもの。
祖母が私に繋いでくれたように、今度は私が私の子供に伝えなければならない大切なもの。
「おばあちゃん。私、もう泣かないよ」
だって。
「おばあちゃんはこんなにも近くで私と一緒に居るもの」
そう言って私は笑った。
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17XX年。
とある大陸で最後まで侵略者に抵抗を続けていた先住民が完全に滅ぼされた。
おぞましき事に彼らには人を喰う文化があったという。
死者を弔いもせずに食料とする畜生の如き彼らの行動は古くから続くものであったらしい。
人間というより獣に近い習性を持つ彼らが歴史の中で滅びたのはある種必然であったと言えるかもしれない。
何せ、人間は誰よりも愛のために生きる生き物だから。
そこに獣性など残してはおけないから。