第七章(5) 思ってはいけない願い
今までの私はどうしていただろう?
今までの私は、消える前提で生きていた・・・そうだ。
私は予定通りここから、この屋敷から、公爵様の前から消えたらいい。
「公爵様、アリーナ様は近頃、お元気がないのです。お食事もあまり取られていません」
いつも私が言って欲しくないことは話さないカミラが、私の指示ではないにもかかわらずペラペラと私のことを話す姿を見て、私のことをとても心配していることが伝わってきた。
その姿はあの日に似ていて、私は何も言えなくなってしまった。
「アリーナ様は、公爵様に心配をかけたくなくて、本日のお誘いをお断りさせて頂いただけでございます」
「それなら、心配をかけないという目的を果たせなくなった今、俺との食事は断る理由はないな?」「はい」
「アリーナ様?!」
カメラが驚いた声を出した。そりゃあそうだろう。急に食事をすると言い出したのだから。
私はもう、ここには居られない。それなら、せっかくの機会だから、一緒にお食事をして、感謝を勝手に伝えておくのも・・・・
「けど僕は、二人でもう少し、素直になって話した方がいいと思うよ?」
その声はドアの方からしていて、 ドアの所に立っていたのは、公職様の幼馴染のエリオット様でした。
「・・・・素直、だと?」
「そう。本当は心配で仕方がなくて、最近では目も合わなくなって寂しい、って言えばいいんだよ」
・・・・目が合わなくて、寂しい?
「・・・・っ!余計なことを言うな!」
「ほ、本当ですか?」
「え・・・・」
「寂しいって、本当に、思っていらっしゃいますか?」
いけない。こんなことでは、ここを離れたくなくなってしまう。分かっているのに。
それでも少し、願ってしまっている。公爵様に、寂しいと思われているのではないか、と。