第七章(2) 元気のない妻について By ハロルド・レイルズ
「・・・・最近元気がない」
「え?あ、奥さんのことね?」
独り言のつもりでつぶやいた言葉をスタンに聞かれてしまっていたらしい。
「元気がないって?」
「目が合わない 」
「・・・・は?」
「ずっと、うつむいている」
あの事件の後、キズが治った彼女は、今までのように俺を見ることがなくなっていた。
「俺の誘いを、全て断っている」
今までこんなことはなかったのに。初めは、色んなことを俺に黙っていたことが後ろめたいのかと思っていた。だが一ヶ月経っても、そのままなので、別のことが原因なのではないか、と最近は思ってしまうほどに、心配だった。
「恥ずかしいんじゃないの?」
「・・・・は?何が?」
「手を握られるとか、恥ずかしくない?」
・・・・手を握る?俺と彼女が?
記憶になくて、何を言われているのかわからなかった。
「もしかして、まだ手も繋いでないとか・・・・?」
もちろんそうだった。
「一ヶ月経ったら、ハルでも手をつなぐことぐらい出来るんじゃないかと、そう思った僕がバカだった・・・・」
スタンはそう言うと、呆れた目をしながら俺の方を見た。
「でも、そうじゃないなら、何でだろうね?仕事に行きたいけど、それを伝えられてない、とか?」「カフェで働かせるわけにはいかない!」
俺はすぐにそう言った。
「・・・・一応聞くよ、なんで?」
「あの料理のマズイ店から、男客を取ったのは彼女だ。つまり、カフェには彼女目当ての男客が山程来るだろ?そうわかっていて、妻を行かすことは出来ない!」
「・・・・はぁ。もういいよ。分かったから」
スタンは何故かため息をつきながら、俺にそう言った。