第六話 スキルの使い方
「それはそうと、ソロのスキルがよくわからないな。コセキエツランと言うのはどう言う意味だろうか」
「私にもわかりませんねぇ」
冒険者ギルドを後にして、とりあえずレベル上げをするのに初心者服だと危ないからと防具屋さんに来て30分経過。
ギルドの受付嬢さんは、ここまで行動範囲広いのだろうか。やはりおかしなゲームだ。
「戸籍閲覧って言うのは市役所…洋風に言うとシティーオフィス…いやこのゲームの場合、冒険者ギルドがそれにあたるかもしれない。個人の情報を管理する場所のところだよ。そこでその人の情報を見たり、それを証明書として発行したりするんだけど…その権限といいますか」
「ソロさんは私と同じ職業って事ですか!?」
「サラと同じかどうかは怪しいけど…似たような物だと思う。」
「なるほどな…確かにそれを冒険に活かすと言うのは難しいかも知れない」
「うーん…確かにそうですね…」
「使い方を考えるって言っても、なかなか難しいとは思うんだよね…はぁ」
「実際使わなければわからない事もあるし、そう落ち込むな。…防具はこの辺りが欲しいのだが、ソロ…所持金は?」
「……ハイ、足りないデス」
アリシアが指さしたのは胸当てと手袋、マントだが所持金が小銭程度の自分には高級品だ。
「パーティーを組んで私が敵を倒せばいいのだが、もしモンスターがソロに向かって行った場合…対処が遅れればジェリーでも即死だからな…うーむ」
「ジェリーと言うのはスライム的な?」
「そうですよ。プルプルもちもちしてます。ジェリー状なので液体化しますし。詳しくは私のアイテムチート使用読本をご覧ください」
サラにそう言われ、先ほど頂いたアイテムチート使用読本を開く。
本の名前が長いから、アイテム本とでも呼ぼうかな。
ジェリー…あ、これだ。絵付きとは親切な仕様である。可愛いぷよぷよのまんまるな姿で、スライムみたいな敵のようだ。
「倒した後の液体は30分後に結晶化、結晶は宝石として一部の人に好まれる。身につけていれば魔除けに…ええぇ…」
「フフフ。有用な本でしょう?門外不出ですからね。プレイヤーには見せないでくださいね」
「内容が凄すぎて、ゲームバランスを壊しかねないから見せられないよ。宝石と言うならこれは高く売れる物なの?」
「いや、愛好家は居るが物々交換の対象だ。好きな人達は自分でも狩れる事が多い。…時にソロ。防具屋のNPC依頼クエストはどこまで進んでいるだろうか」
アリシアが顎を手でムニムニしながら聞いてくる。
「メニュー表示…ええと、レベル50、防具や最後の依頼って言うのが次だね」
「なんと…そこまで進めていたのか。防具屋の依頼は街中を巡る、面倒なものばかりだったろうに」
「確かに歩き回りはしたけど、NPCのクエストを全部同時進行すれば効率的にこなせたよ。
ログインしてからまだ3時間くらいだけど、そこまでキリキリ働いてはないかな」
「「へぇ………」」
二人とも感心した様子で居るけれど、ゲーム慣れしているならこの程度は誰でもできると思う。やってることはお使いだったし。
「あぁ!誰かと思ったらソロじゃねぇか!お前さんが俺の依頼をこなしてくれたから大助かりだぜ」
「お、クリフさんだ。最後のクエストはよくわからんけどねー」
「フフフ…」
店の奥からむっちりした筋肉を纏った男性が出てきた。上下ともにラフなシャツとパンツ姿だが浮き上がって見える筋肉は隆々としていて、中々の偉丈夫だ。含み笑いはいたずらっ子のように可愛いけれど。
彼は防具屋NPCのクリフだ。NPC依頼は依頼者が防具屋かどうか、疑わしい内容が多い。裏口でしか会っていなかったからお店に来たのは初めてだ。少々新鮮味がある。
「クリフの依頼はどんな物だ?」
「…防具屋さんの想い人は誰でしょう?その人に今まで集めたアイテムを渡して欲しいって書いてある。」
「…この流れは告白だと思うのだが、まさか他人任せとは」
「いやですねー、度胸のない男は嫌われますよ?」
「……くっ。放っておいてくれ。俺は長年の片思いを拗らせてるし、こんな見てくれだし…自信がないんだよ。そんな目で見ないでくれ」
「「……」」
クリフは女性二人に睨まれて縮こまっている。クエストをこなすうちに彼とも会話を交わして重ねて、照れ屋で一途な好青年ということは知っていた。
こうして見ていると、何とも健気な感じがする。
同じ男としては告白に勇気がいるのはわかる。…恋愛はしたことありませんが。
「防具屋のクエストで集めたものとは何だ?」
「川底で苦労して見つけた光る石、鍛冶屋さんへのおつかいでもらったシルバーリング、街外れの草原で作った花束とかそんな感じだね」
「防具屋らしい依頼は鍛冶屋への遣いくらいなものだな」
「私たちは誰が意中の相手か知ってますが、言えませんねぇこれも」
「クリフさん、意中のお相手って街の中にいる?」
「あぁ、そうだな」
「もしかして小さい時から付き合いがある?長年の想いを拗らせてるんだよね?」
「幼馴染だ。学校も同じだった」
「ふむ…」
となると、これはスキルを使ってみるのがいいかもしれないな。
戸籍情報を見れば幼馴染も分かりそうだ。
サラにもらったアイテム本を鞄に仕舞い込み、スキルの説明欄を開く。…使い方書いてないんですけど。
「あぁ!スキル使ってみるんですか?確かにそれでわかるかもしれませんね!」
「スキルの使用法はスキル名に指先で触れれば、脳内に浮かんでくるぞ」
「そうなんだ…ありがとう。とりあえずやってみるか!」
『戸籍情報閲覧』の文字にそっと触れると、ブォンと音が響く。
『パスワードを入力してください』という文字が表示され、思い当たる数字…ゲームを始める際にアカウントを作り、それに設定した六文字を入力した。
『本人認証確認』『スキルを使用する対象に触れて下さい』と続け様に表示される。
「防具屋さん。触ってもいいかな?」
「お?良いぜ!」
「はい、どうもありがとう」
元気に答えられたクリフに触れると、検索画面が閉じて『Now loading...』
の文字が浮かんでくる。
「地味だな、これ。もうちょっとこう…派手な演出はないのかな?カッコよく使ってみたいな。」
「ソロ、音声コマンドが有効なゲームなのだから声に出せば良いのではないか?」
「アッ。確かに…次からはそれで行くか」
「ソロさんってちょっと抜けてます?」
「サラ、ひどいよ…」
いつの間にかパーティーメンバーのように気軽に話せる二人の微笑みを受けつつ、俺はクリフの戸籍情報を開いた。