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第二話 特別業務と外れスキル


「おはようございます!御主人様」 

「…おはよ…AIくん、いつものモーニングセットよろしく…」

「かしこまりました」

 

 寝ぼけ眼でAIコンピュータに指示を出す。上半身を起こされたベッドを出て、あくびを一つ。

クローゼットの前に立つと温かいおしぼりがコロン、と出てくる。それで顔を拭きながら、にゅっと出てきたワイシャツ、スーツを手に取った。



 

 便利な世の中になったもんだ。AI付属の機械がこうして朝からお世話してくれるなんて。

 

 着替えが終わり、リビングの椅子に座る。一人用のダイニングテーブルにコーンフレークと牛乳がせり上がって来た。座卓の下は専用の冷蔵庫だ。

 お湯が沸いたのを確認して用意されたコップに注ぐと、イユスタントコーヒーが香りを漂わせる。お決まりのメニューだが、用意してもらえると言うのが素晴らしい。一人暮らしと仕事を始めてからは大変ありがたいシステムだ。



 


「今朝のニュースです。『アンノウン・ケース』の犠牲者がまた増えました。」

「やだねー、物騒だねー」



 ニュースの煽り文句にのんびり答え、コーヒーを啜る。


 アンノウン・ケースなんて格好いい名前がついてはいるものの、証拠不十分、犯人が見つからないと言う…要するに殺人事件だ。

 密室殺人だし手がかりが何にもないからどうにもならない。そんな物騒な事件が世間では話題になっていた。


 

「被害者は20代の男女計三名。アンノウン・ケースの代名詞である密室殺人との事です。

 また今回も被害者が発見された際、インターネットゲームをしていた形跡があり、ゲーム会社への追求は厳しさを増すと思われます。

 被害者同士は、全く場所の違うアパートに住んでおり、持病もなく健康だったことから……」


「ごちそうさまでした」



 

 コーンフレークを食べ終わり、タッチパネルを押すと皿がテーブルに吸い込まれる。食洗機もついてるから使用後の食器を勝手に洗ってくれて、明日の朝にはまた同じメニューが出てくる仕様だ。

 牛乳とコーンフレークを買い足して補充すればいいだけと言う手間の少なさも良いところ。

 他の付属機器をつければホットケーキなんかもできるらしいが、今のところ不自由はしていない。朝は軽くしておかないと、電車の中で揉みくちゃにされてマーライオンになるからな。それだけは避けたい。


  

 

 椅子から立ち上がるとテレビが消える。玄関脇のボードにかけたビジネスバッグを引っ掴み、パスケースを胸ポケットにねじ込んで、玄関のドアを開けた。

 

「よし、行きがけに神社でも参拝してリアルラックを増やして出勤だな!行ってきます」


「行ってらっしゃいませ」



 自宅管理を担うAI君の無機質な声に見送られ、俺は朝日の中に歩き出した――

 


 ━━━━━━


「特別業務の抽選会を始めます」



 市役所の大きなロビーに公務員たちがひしめき合い、それぞれ紙に書いた番号を握りしめてドキドキしている。

 俺もその一員だ。


 地方公務員は薄給だし、残業もアホほどあるし、悪意ある人も沢山やってくるし、ブラック企業並に体も心もすり減らす大変な仕事なんだ。


  

 巷で話題の「アンノウン・ケース」…殺人事件はVRのゲーム世界と連動しているのでは無いかと言われている。

 小説みたいな話だが、それが現実に起こり、ゲームの中で殺された人がリアルでも殺されていると言う話。

 警察がゲーム内に捜査でログインしたものの、国家公務員様達がゲーム慣れしていないせいか全く成果は出ていなかった。


 そこで、地方公務員である俺たちにもお鉢が回ってきたんだ。


  

『ゲームにログインして、調査してほしい、給料は弾む』

 

『ゲーム中は出勤扱いになるし、専用の部屋でお世話するし、寝てられる』



 

 …なんて言われて応募しないわけない。

 ブラッキーな仕事に疲れた俺たちは諸手をあげて応募、そして人数が多すぎて抽選会が行われる事となった。


「結果が出なくても給料増える」

「寝てても金がもらえるなんて最高」

「通常業務から逃げたい」



 

 周りの奴らが俺のセリフ取ってるし。そう、ゲームで捜査協力という大義名分を得ながら睡眠と給料が頂ける。サイコーじゃん。


 

 ステージ上に上がったお偉いさんがボックスの中から紙を取り出し、開いた!


「当選番号は1番の人!」

 

 周囲の公務員たちが膝を折って項垂れる中、俺は番号札を握り締めて涙を流した。

 今朝寄った神社の神様…ありがとう…ありがとう。


「……で、誰が担当になったんだ?」

「お、お、俺です!!!!!!!!」



 生まれて初めての大声で叫び、壇上でびっくりしている上司に駆け寄った。


 ━━━━━━


 

 雲ひとつない青空、日差しが燦々と降り注ぎ草原に風が渡る。

耳元から流れる音楽は牧歌的な音楽…よくあるフィールドミュージックだ。

 

 そして…見渡す限りの草原からは青々とした草の香りがしていて、葉が触れ合う優しい囁きが聞こえる。

 

 VRってすごい!ここで寝っ転がるだけでも価値があるぞ!

キャッチコピーの『お手軽転生!人生を変える!』ってのは伊達じゃない!



 さて、ゲームの中にログインしたら確認するべきことが一つ…それは『スキル』の確認だ。このゲームの設定ではただのログインではなく、リアルからの『転生』とされている。本当にゲームの中に転生するわけじゃないが、コンセプトとしては心惹かれる物があるらしい。

 世の中疲れた人で溢れかえっているから、仕方ないとは思える。


 


「ステータス表示!…おぉ、ほんとに出た。」

 

 説明された通り、コマンドは音声で行うらしい。……ちょっと恥ずかしいな。

メニュー画面には自分の名前、年齢、性別、体力や魔力?みたいなものが表示されている。若干透け感があってほんのり青く光る文字達は近未来的な感じだ。

 


 俺のステータスはどんなもんかな…さっき簡単に読まされたマニュアルの数字を思い浮かべながら、パネルを眺めた。

 ……体力、魔力は全て平均数値、職業欄は空欄だ。しかし、何だこりゃ。

 

 【スキル 戸籍情報閲覧】


 


 …はぃ?職業が空欄なのは良いとして、スキル名には大変見覚えがあります。

 え?俺転生したのに、ゲームの中でも公務員なの?ていうかこのスキルはVRの冒険ファンタジーで、一体何に役立つんだ?


 プレイヤーのステータスも、スキルも何もかもがこのゲームではランダムに与えられる。当然当たり外れがあるらしいが。



 

「どう見てもハズレじゃないか。公務員が洋風ファンタジーのゲームで冒険者になれる訳ないだろ…」


 本当は、少し期待していた。転生なんてコンセプトにしているのだから、リアルと違って何かの役に立てるんじゃないか、何者かになれるんじゃないかと。

 

 ――不思議な力使って敵を倒す魔法使い、大きな剣を振り回すカッコイイ剣士…そういう物のに憧れていたけど、現実は甘くないな。



 

 俺はため息を一つ草原に残し、とりあえず街を目指して足を踏み出した――


 

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