第十話 希少装備
「これは親分には言えないのですが、どうせ独身を貫くならその代わりにと思い、希少素材ばかりを使っているんですよ」
「オーレリア殿…まさかとは思いましたが、翠風鳥の羽などは…」
「もちろん使ってます。色が見えましたか?軽量化の溝も入っていますが、魔鳥の羽を使わなければ持ち上がらないほど重くなりまして。
刃は鉄ではなくオリハルコン、刃以外は全てミスリルです。一子相伝の溶接も鞘じりの金属に使いました。グリップに巻いた皮は空飛蜥蜴ですよ」
「なっ!?何と言う…恐ろしい組み合わせすぎでは?」
「ええ、ですから手元に置けないのです。ソロに持っていってもらわないと…」
アリシアもオーレリアさんもコソッと耳打ちしあって、キャッキャしてる。
俺は聞いてないぞ、名前だけで大体わかるヤバそうな素材を使っただなんて知らないままでいたい…。
ポンメルと言いながら指さしてるのは剣を握る部位の根本、手首側にある滑り止めのようだ。丸いボールみたいなものがそこについている。
ボール自体にかなり細かい模様が刻まれていて、まるで美術品のようだと思う。
もちろん時代設定的には手彫りだろうと思われるが、コストパフォーマンス的に…それで値段が釣り上がりそうなのは素人の俺でもわかる。
『トゥルーエンド』は艶消しの黒い鞘に入って、シルバーカラーの飾りがふんだんに散らばされた剣。装飾は上品な範囲ながらもよく見るととんでもない手が凝った作品だ。
銀色が光を弾くと、わずかに翠色に見える。さっき言っていた『翠風鳥』は冒険者ギルドの退治依頼書が掲示板に貼られていた。
遭遇確率一万分の一で、すばしっこいからまず逢うこと自体が無くて、いつまでも掲げ、どこでも受けられるクエストらしい。
プレイヤー達が言っていたのは『何にでも使える軽量化の素材』『買いたくても買えない』と言う不穏なワードだ。
しかし、どうやって金属に羽を溶かすのだろうか…。この辺はしっかりファンタジー要素があるんだな。
そして、オーレリアさんが自棄になって貴重な素材を使ってしまった為、手元に置けないと言うのは逃げ道が塞がれる要因だと説明がなされてしまった。
俺の返却したいと言う欲望は叶えてもらえなさそうだ。二人の笑顔に若干黒いものが見えるのはそのせいだな…俺は若干の頭痛を覚えて額を抑えるしかなかった。
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「さて、話がまとまったところで…ソロ。よく似合ってるぜ」
「あぁ、冒険者らしくなったな。」
「わしの遺作を作ったら、またお前さんにやろう」
「フリントさん、縁起でもないこと言わないで下さい。話は全くまとまってないですけど…とりあえずありがとうございます…はぁ」
「まぁまぁ、そう言わずに。装備が揃ったなら早速試しに行かないか。街の隔壁の傍なら弱いモンスターしか出ないだろうし、そこでサクッとジェリー退治など如何だろうか」
「アリシア…ワクワクしてるな」
「わたしは街の外に出られないので、一旦職場に戻りますね。ソロさん、こちらをどうぞ」
サラが手渡してきたのはモンスターの討伐クエスト。まともなのはサラだけか。いや、NPCとしてはまともなのかは疑問なところだけれども、もう色々突っ込むのはやめよう。現実がそうなんだから受け入れるしかない。
「ありがとうサラ。じゃあ、皆さん家族で仲良く暮らしてください。お幸せに!」
防具屋のクリフ、武器屋のオーレリア、鍛冶屋のフリントさんに手を振って防具店を出る。
サラとも冒険者ギルド前で別れてアリシアと二人、街の隔壁から外へ出た。
「へえぇ…すごいなこれ…」
「街道を見たのは初めてか?」
「うん。フィールドにきちんと出たのがそもそも初めてだ。ログインして最初の草原しか知らなかったから。
気持ちいい風が吹いてるな…」
街の隔壁は石でできていて、堅牢だ。門が開きっぱなしになっているが中に入ろうとするモンスターはいない。アリシア曰く、そういう決まりなのだそうで。
初心者の街はゲームの設定でそうなっているらしいが、俺は相変わらずあまり信用していない。今までずっとおかしかったゲームがまともになるとは思えないので。
「まずは剣の使い方を見てもらおうか。ジェリーは本人が倒さなければ討伐クエストは進行しない。隔壁に沿って一周するとしよう。」
「わかった。よろしくお願いします、アリシア先生」
アリシアは解いていた金髪をまとめてポニーテールに結い上げる。さらりと風に靡くそれは太陽の光みたいな色をしていた。
「まずは剣の抜き方から。まず知って欲しいのはこの剣自体の切れ味が鋭く、軽量型であることが…実は危険なんだ」
「危険?持ち主がって事?」
「ああ。剣の重さによって持ち主は警戒心を抱くだろう?安全に抜けるようになるまでは意識して慎重に扱って欲しい。
また、レア度が高いアイテムは所有者にしか使えない。先ほどオーレリアが『返されても困る』と言っていたのは親父さんにバレて怒られるだけの理由ではない。すでにソロの所有物として作成者が指定しているからだな。」
「所有者として設定…できるのか」
「ああ。通常敵ドロップの場合はドロップさせたプレイヤーが持ち主になり、贈与される場合は渡す側が設定する。
一般的な物品にはそう言った設定がないから、希少なものとそうでないものの区別は一瞬で着くだろう」
「なるほどね。さて、じゃあ御指南よろしくお願いします!」
「あぁ、よく見ていてくれ!」
アリシアの笑顔を受け取り、俺は苦笑いで応えた。




