国家
それは、きっとたった一度。
だけど、一度はとても重く牙を向ける。
ならば、俺たちはその牙に対処などできるのだろうか?
それ程、未熟なのかもしれない。
どうやら、当面の危機には救われたらしい。
疲労した体を心配するように
「は、ハルさん……」
「大丈夫、擦っただけだから」
それしか、もはや言葉に出せなかった。
走っていた自転車、だがユーリが気にかけたのか自分から自転車から降りて後ろからバランスを維持するように押してくれた。
「とっとっと」
咄嗟に自転車のハンドルを切って床に転倒。
なんとも情けない姿だ。
だけど、ユーリから、
「ごめんなさい」
と、自分を鬩ぎ立てるように何度も言葉を繰り返す。
「っ、いて。……ほら、ユーリ」
立ち上がった自分がフラフラしていたのも分かっている。
前に体重をかけて、擦れた部分を必死にごまかすことしかできなくてすこしばかり惨めだった。
細い脇道。
そして出口に待ち構えていたのは勝てない勝負に、まるでチェックメイトをかけるかのように出口を塞ぐように一台のスポーツカー。
「そこで止まれっ!!! 悠長に勧告したわけではない、これは警告だっ!!」
野太い声とそこには、さきほどとは違い本領で脅してきた。
それは、銃を片手に黒服の男と、黒髪の女性の姿。
「ユーリっ、お前だけでも逃げろっ!!!!」
自転車をギリギリまで制止を振り切って大通りへと飛び出そうとする。
もう、あとのことなんて考えられなかった。
ユーリはスポーツカーを飛び越えて、数メートル先の地面へと足を付けた。
だけど……この後のことなど彼女には考える余力もなく止まってしまった。
「ハル……さんっ!!」
「逃げろっ!!!!!」
「いや、ハルさんも。私……わたしっ」
「バカ野郎ッ!!! お前はッ!!!」
大声を出して、黒服の男に体をぶつける。
銃で撃たれてしまったら、それでもユーリを連れ去られるわけにはいかない。
「Curoa,Launch the signal of the emergency!!!」
そのまま、顔面前に突きつけられた銃。
もしかして、このまま死ぬのだろうかと直感した。
一種の、危機回避能力も役に立たない。
目と鼻の先に銃口が冷たく当たる。
「っ!!!」
「悪いな……これは国家の重要秘密だ」
非現実な出来事に悲観する前に、黒服の男は無感情にも引き金を引いた。 非現実な出来事に悲観する前に、黒服の男は無感情にも引き金を引いた。
コン、と額に直撃した。
そのまま、地面に倒れてこのまま天国に行くには随分痛かったな。
「ぷっ………くすくす、お前芸人になれる」
黒服の男に腹を抱えて笑われた。
「はッ!!!!」
起き上がるが、額には赤くなっていた。
そして、地面に転がっていたのは一発のBB弾だった。
「安心しろ。殺す気も一切ないし第一殺したところでユーリアの成長過程で悪影響だろう? それにクロアにもだ」
「はい。不定確に言えば、私も成長期ですから」
「まー、長くなる話だからとりあえず車に乗ってくれ」
そこには、バイブラントレッドのGT-R。
さっぱりわからない俺に、ユーリは何事もなくて良かったのか安堵した表情を作った。
「……ユーリ、なんで逃げなかった」
ガイノイドとして、プログラムにしては明確とはいえないほどユーリの呆然としていた。
初めて遭遇した出来事に、自身の機械であることなど頭になかったのか。
問い詰める俺に、すこしばかり硬くなって。
「だって、だって……私、どうすればいいかわからなくて」
声を詰まらせて、判断しようがないと自分を責めてでもいるのだろう。
だから、ユーリの頭に手を乗せて優しく撫でた。
「いいんだ。とりあえず、責めたりしないよ」
車に乗り込もうとする俺に、Tシャツの裾を掴む。
「――――」
まだ、不安が残るためなのか、だけど黒服の女性が、
「話は簡単です。貴方はある御方とコンタクトしてください。今回の計画の全容が把握できます」
黒服の女性がこちらに分かり易いように話しかける。
「計画? なんだ、それ」
訳も分からず、拘束されたわけだが落ち着いた様子だった俺。
そこにはっとユーリが息をのんだ。
「クロエア……お姉さん? もしかしてクロエアお姉さんなの?」
そこには、確信を得たからかクロエアと呼ばれた女性にユーリが抱きつく。
「そう、随分探した。搬入作業に妨害されて貴女が行方不明になった知らせを受けて懸命に捜した。でも、見つかってクロア―――嬉しい」
日本語がまだ感覚的にしか喋れていないからか所々に粗野が表れていたがユーリが知っているということは肩の力が幾分かは抜けそうだった。
車に乗り、出向いた先に総理官邸の文字が浮かんだのは10分間車に揺られてからだった。
「――――ここって、首相官邸……」
「くれぐれも問題だけは起こさないでくれよ。タダでさえこの計画の中心人物であることには違いないのだから」
ドライバーである黒服の男はまるで、頭が痛いと言わんばかりにこちらをミラーで確認しつつどうやら余計なお世話だと返答するべきだろう。
「クロエアお姉さん」
「そうね。全容といっても際し貴方にお願いをしたいだけです」
「そんな生易しく言ってもこの餓鬼には通用しないぞ」
まあ、冗談半分にも男の発言には怒りたくもなるが差し支えがないなら、ユーリの喜んでいた顔を眺めていても悪くない。
「自己紹介がまだだったな……。秋月考九朗だ」
車から出てきたときに、サングラスの黒服の男に名前を明かされる。
「八重乃春陽です」
「ああ、残念ながら調査済みだから君の名前は周知していたよ。紹介しよう、この子の姉に当たるMlr-RDX 1a クロアだ」
そう言って肩から押し無理やり紹介されて、ちぐはぐの同じく先ほどの女性。
「………正式名称はクロエアです。春陽さん」
強引にもつれてこられて、官邸前で自己紹介というのも笑ってしまう。
本当にこんな話と共に、どうしても施設内へと案内された。
「初めまして、八重乃さんですよね?」
そこにはテレビでしか見たことのない首相の姿があった。
日本憲政史上初の女性総理という訳であって、テレビで拝見している姿とは格別に違って見える。
それは、近年年金の汚職問題からプール疑惑などの国会議員が打ち立てた対策に議員が裏を書いてプールを汚職していたことに、目を逸らすために女性の新米議員を総理に掲げたとニュースメディアで度々騒がれていたが、内閣のトップともあって
「今回、来て頂いたにはそれだけの理由があります。本来ならば、このような非合法な手を行使してまで使いたくなかったわけです。今回の臨時計画であるMlr-RDXについて既に承知していると思いますが、今回のことについては謝罪させていただきます。巻き込んでしまったこと済まないと」
「それにおける謝罪よりも、どうしてこんな誘拐にも近い事をした理由を聞かせてください」
「それは、貴方における保護監視についてきちんと許可が欲しかった。もっときちんとした形でお連れすれば良かったのですが」
「ユーリは連れ去ってしまうんですか?」
「いえ、事情については。ただ貴方にはこの子の保護役を担ってほしいのです。それは総理としてよりも鈴未原那子としてお願いしたい」
総理としては意外すぎるくらいの発言に、俺は面食らうわけだ。
当面であったユーリの危害を加える様子もなかったため、安心できた部分とそれにおいて不思議になる部分が浮き上がる。
「それとユーリのことについてすこし話を聞かせてください」
「ええ、それについてはコウくんから……」
「―――日本における最高技術推移を蓄積して、本来であるガイノイドである彼女らの人類の補助プロジェクトが計画されて、ユーリア……いや、ユーリと呼ばれる子が本計画の基本口実となるために作られたタイプだ。今後、少子高齢化社会における介護医療から彼女たちにおける開発プロジェクトは人間に近い存在になるための……fakeを作るためだ」
秋月考九朗と自称した人物が、話の大まかに掻い摘んで話す。
確かに、ユーリの姿を一目すれば人だって思えるかもしれない。
「だけど、どうして―――」
妨害工作までされて、もしかしたらユーリは無事では済まなかったかもしれない。
だって、彼女はまだ何もできなくて……まるで“ひよこ”だったわけだ。
「当然、疎外されることになることはわかっていた。だが、より機械としてではない――――ユーリを人間とコミュニケーションを取り、人として彼女を生活させて今後活かされるだろうガイノイドの構築プログラムとして生かしたかったからだ」
世間ではロボットといっても、表情筋を作り出すのに手いっぱいだった。
ロボット工学にこんなに高度な技術を隠蔽していたわけだ。
ニュースメディアにも絶大に注目されるが、高度な実用域までガイノイドが開発していた。
それとしての代償は……多分、俺であり、ユーリなのだろう。
結局帰り道では、保護管理者に認定された俺の膝にユーリが寝転がっていた。
家までの時間、確信を得たことはユーリの存在。
だけど、概要を話されても結局のところ俺には理解できる部分なんてほんの一握りでしかない。
なのに、ユーリはどう感じたのだろう。
生まれ持った宿命。
それは、人間の真似ごとをしていなさいと。
それは、本当に幸せなのだろうか?
――――俺には、とても悲しいように見えた。
Next episode
ようやく、1話としては完結ですね。
ですが、2話にはようやくの平常を得られるユーリですがこれまたドタバタ劇が待っているかもしれません。
今回は少し話が大きいから理解しにくい部分は、今後に説明的な描写をいれますので期待してください。




