真夏の幻夜
クロアの独断場ではあるけれど、本来のほのぼの路線が……。
まあ、それは良かれ早く尚且つ効率の良さを習得しなければいけないなぁ。
「ここは?」
体中の痛みに、エラー音が絶えなく続くいているのに反応したのは少しの時間が経っていたらしい。
我に返って、頭の覚醒を促すと冴えない気分と愁哀に満ちた光景が広がっていた。
煙が巻き上がり、Y2Kの大破した部品から息を潜めるように暫く動く様子もない。
クロアは腰を上げて、背水の陣とした状況下にまで追い込まれたのも初めてでそこに躊躇う余裕すらないし、まして突き崩してまで得た僅かな結果だった。
「春陽さん?」
横転したバイクからの決死の脱出に、破損した部位の痛みが疼く。
応急処置と感情の制御をし、痛みとは無縁とは言い難いがせめて無理やり遮断したクロアの体に一部はすでに内部回路が剥き出しになる。
代外品とはいえ、人間だったら激痛で泣き叫ぶのだろうと私は内蔵されていた感情がまるで飾りのように予備バッテリーへと切り替えた。
傷ついた器官を修復しようと、躍起になるのも束の間ヘルメット越しから蒸れた感触と破損した接続端子。
「春陽さん」
張り付かせるように壁に体を寄せて、ヘルメットを脱ぎ捨て左右に顔を振って湿った髪を払う。
ささやかな開放感とは正反対に急いで春陽さんと合流しないといけないのだというのに、欠損した一部が邪魔をして動きを鈍らせてしまっている。
脇腹をかかえて、神経回路とまだ破損していなかった複合ユニットに接続して余剰であるサポートシステムを切り離す。
Y2Kは敵に特攻してしまったために、自分の足で歩く他ないと足を引き釣りながらも彼の姿を探していた。
特攻をかける直前で、サイドカーを切り離したのでそれほどにまで遠くにはいっていない。
激突して、火球に変わったY2Kの姿と同時に自分の損傷具合から見ても然程良い結果とは言えなかいのだ。
「っ……」
周りの空間は、爆発を除けばヘリコプターの音。それにサイレンとヘッドライトに照らされ、封鎖された出口には自衛隊が高見をして街灯は破壊され、局所的な明かり以外は暗闇が立ち籠める。
街灯としての機能は失って、飛び交うヘリコプターのライトを頼りにする他手段がなかった。
夜間戦闘には、不慣れな部分が多い。特に相手が巨大型の戦闘兵器など初めて相手をするのだ。神経回路を尖らせ、自分の人工筋肉が引き攣るのが分かるくらい。
初めて、自分のしている事の大きさに気がついたのだと思っただけでクロアの頬が締まる。
(早く、春陽さんを探さないと)
自責をしても、最優先に彼の無事を確認するべきなのだとただそれだけしか思えないのは、九郎との約束だろうから動き出そうとした足はこんなににも重たい。
「心なんて……私には無いのに」
逸脱した行動に、きっと怒っている筈だ。それに、命令を果たせずに機能停止だけは絶対にしたくない。
(………私は、ヒューマノイドロボットだ)
流れるように、一つの赤い光が視える。
不意の体が物音に反応して振り向く、鉄屑と瓦礫の山から突き抜けでて存在を黙示するようにアームスーツが煙にまかれ瓦礫の山から顔を出した。
既にY2Kの特攻により、既存された切刃によって切断された装甲と、自立を補助していた配線ケーブルは切断されているが、未だに動いている。
起動用OSと、パターン学習用のS-RAMが途切れた補助配線ケーブルの役割を修復し、あまつにさえ自立してしまったのだ。
無機質かつ無感情に輝く有機発光スキャナは、薄気味悪く開閉式の頭部ライトフラッシャーから獲物を取り逃がすことはないのだと狩人のような気迫。
実験データにしても、アームスーツにとってはまたもない機会を見逃すこともないだろう。
故に、
「……はっ」
怒涛とした唸り声と同時に、強化外骨格が再度装填したガトリングをその場で連射。
クロアは緊急回避とした回避の動きでさえ鈍く、痛みがないはずなのに痛みとして限定的感情だけが引きずった足を微睡もしい。
弾丸を脆に受ければ、ヒューマノイドロボットとはいえ直への直撃はナノファイバーを抜け内部構造にまで影響がでてしまう。
腰を低くし、射程からの寸前で避ける体勢を作りその場での抵抗。
弾丸は斜め上へと逸れ、瞬速とした速さを左腕で被弾率を下げ直撃を防ぐ。
掛けるように、脚部への負荷を最大にまで下げ、砲弾としたガトリング砲は真後ろにある壁を意図も簡単に砕き、散らしたアスパルト片が右頬をえぐっていた。
「まだっ」
右腕で回転をつけながら、左足でコンクリート片を爪先で蹴りあげ、余った脚で余力をつける。
そのまま、飛翔し遥かアームスーツの3メートル先を見事に着地し、瞬き一つしないまま構えた報復は右手でベレッタM92を左手には、グロック17を指に添えたのだ。
射撃ソフトは中短距離をフルインストールしているため、狙いを1ミリ単位も外すことはない。
標準は、変わらず強化外骨格に重なる。
このまま、少しでも時間を稼げればいいそう思い、弾を使い切るまでの間標準は外れることはなかった。
その矢先、強化外骨格の重量に耐え切れなくなった主要道路は、瓦解し始めあろうことか真下へと落下を描いていくのだ。
真夏にはホラーが必要不可欠だというが、べつに必要ないだろうと返って会談話には幽霊を呼び寄せるなどの前例があるのでご注意を。