catch ball
野球ゲームですから、とりあえずパワフロくんでもやらないといけないのだ。早速任天堂64を引っ張り出してだな(おいおい
ということで、ヤッチボール。
でも、体験というものは大切だと改めて実感。
「ハルさん……」
隣の席ではうずうずと、待っていられないユーリの可愛らしい姿。
考えてみれば学校でも振り回されていることに今頃気が付いた俺だが、易々と突き放すことなんてできるわけなく、
「ユーリ?」
「野球、おしえてくださいっ、なんでも頑張ります!」
「ユーリが選手になったらな」
「選手にならなくても、きゃっちぼーるしたいです」
「……俺でよければ、いつでも相手するよ」
こそばゆい。
だから、居心地が悪いわけでもなくてユーリの野球について素直になれた。
結局引いたクジは、当然二人とも『当たり』だった。
「今年は楽しそうだな」
「どこがだ、柚樹」
あー、また余計なモノを引き当ててしまった。
ユーリは何気なく、野球についてのルールを吉田から教わっている姿を隣で柚樹が顔をだす。
「だって、いつも倦怠そうなハルがこんなに笑っているんだもの」
「仕方ないだろう」
「ユーリのため?」
「ああ、ユーリのため」
すると、間近に近づいた柚樹にはとてもどきどきしていた。
「本当に?」
「本当だ。それに今日はやけに絡むな」
「しょうがないでしょう? 女の子の日ですから」
マジマジと言われると結構気恥ずかしい。
それは、一番本人がよく知っていてそれを聞いた途端、顔が朗らかになる。ピンク色に染めて、柚樹ははにかんでいた。
「でも、ユーリのコーチ役請け負ったんだから頑張ってね」
本当、考えてみればどうして俺たちとつるむ必要があったのだろうか?
「柚樹、お前って……」
「ふぁあ、ハル。秋になりそうだな」
会話をそらす。
だけど、
「どうして、ずっと俺たちと仲間をしている。もっと女の子なら女子生徒と戯れることだって」
「いいの。ワタシは愉しいから。あ、ユーリちゃんの様子見てくるねっ!!」
その後なんて理由を聞けるはずもなく、踵を返した彼女の姿をひたすらいいそびれた気持ちが宙に浮いていた。
「ボールをよく見る。まず、グローブに慣れることを優先してな」
渇いた音が、グランドに響く。
芝生がけから広大な野球用グランドと二つも校庭があるのだから整備にかんしては専門の業者を頼まないとやりきれないほど広い。
まして、グランドに残っていた部活はどうやら疚しい事でも考えていたように一角で集合していたため、俺たちで占拠。
蝉音がけたたましい、陣形は3人。
吉田と、久野は予定があるためたかがキャッチボールなので不参加。
それに、他のメンバーも今日は都合が悪いようだ。
それでも、柚樹は暑い中を長袖の運動着をめくるように腕まくりしてグローブからボールを尽かさずキャッチ。ユーリはおっちょこちょいでも彼女なりに頑張っている。
リボンで纏め肩まで伸びた髪が揺れる。
長いオレンジ色に染まった彼女が30分前までグローブの装着まで知らなかったユーリ。
「はい、ハルさんっ!!」
意気込みはいい、だけどいざボールが飛んできた時にユーリはロボット故に微妙な角度からは受けとめることもできない。たぶん、感覚が発育されていない。
正面からのボールを両手で押さえていたつもりでも、ボールを落としてしまう。
拾い上げて、また投げる。
それを何回か繰り返す。
始めはべつにいい、ユーリは野球が初めてでボールなんて触ったことがないひとだから当然に投げることも不自然なフォームで動いてしまうこともわかっていた。
だけど、一生懸命さは誰よりもある。それに、とんでもない方向へと飛んでいくのを未然に防ぐのが俺の役目らしい。
「ぐっ!!」
とりあえず足を浮かせて、キャッチ。
ここは返しとしてストレート一球を腰から振る。
頭上を、スロークしたボールが胸へと収まるように円形したように柚樹へと気鋭よく収まった。
「うん、結構球の運びがよくなってきた」
そして片手に持ち替えた球はユーリの左腕にすっぽりと軽めに投げられたボールをこぼさず受けた。
「そ、そうなのか?」
「放課後密かに練習していた価値ありだよ。ハルッ」
「えいっ!!」
また、ありえない方向へと投げるユーリ。
飛び出す俺はフットワークを使い、身体全体からボールを追いかける。
そのまま、動きが止まった時には腕にはボールが握られていた。
そういえば、ユーリって運動音痴がバレてしまったのではないだろうか?
大丈夫、きっとそんな時にはチートとしてデータをインストールすればおっけ。
でも、それは結局一般高校生程度に適度に調整されているので、すぐさま体操選手になれるというわけではございません。
所詮、ロボットはスーパーマンじゃないですから。