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0からならば、ハルにとって何がゼロでありイチなのだろう?

 それは、機械と人間だから。

いいや、違う。何故ならば、個人としての気持ちの距離に戸惑いでもあるからだ。

 それは署名によって、変化でも起点でもなく変換点そのものである。

意識はまだある。

攀じ登るように、ゆっくりと立ち上がり腕に斧を掴んで再び振り上げたのだ。

「その斧を降ろすんだっ!!! 栗原殿……その者は客人に失礼だろう」

 制止する。

やってきたのは老人で、

それは、見るも明らかに研究員ではない。

一介にも、その研究員としては彼を止める術は持ち得るはずもない。

ハスキーとも野太く、そしてなによりも存在感を秘めていた声。

「……失礼しました。源蔵さま」

 引き下がる研究員には既にさめざめとした顔が窺えた。

 そう、姿まるで雰囲気が老人でもある御方だが、歳を超越して今まであった空気が変わる。

―――所長、あるいはその上の人なのだろう。

「不埒な行為、誠に申し訳ない。だが、許してほしい。我々にはユーリアにどれだけ愛情をそそいできたものを奪い去られる気持ち……お主にもわかるだろう?」

 それは、どんな気持ちだったのか。

「はい……」

「問うのが遅れたな……お主が八重乃 春陽殿か?」

 まるで澄み透ったように、老人は見据える。

「はい」

 ああ、とんでもなく瞬間に大笑いをする。

声に上げて、そして歓喜したように老人の笑い声だけが廊下を響いていた。


 連れてこられたのは、客室の間。

ユーリと俺は隣り合うように座り、老人は俺の対するようにソファに腰掛けた。

研究所とは思えない豪勢な作り。そして、ユーリのすこし気が落ち着いたのか。

「ハルさん、お怪我ありませんでしたか?」

「ああ、大丈夫」

「名前を申していなかったな、豪和源蔵だ。ここの責任者をしている」

「先ほどはありがとうございます」

 頭を下げる俺に、つられてユーリも同じ動作をする。

「いやいや。客人のもてなし方を忘れるほど野暮が多かったのだよ」

 タイプライターの火が燈されて、1枚の書類なのだろう紙を机に置いた。

「これは、ユーリアの管理所在所確認の紙だ。我々は、崇高なる判断を機械任せにしようとしたのだ。ユーリアのことは総理から任命されたのだろう?」

「はい」

「よかろう。ならばこの紙にお主の住所を書き記せ。そして我々はこの件から手を引くことを誓う」

「どうして、呆気なく貴方は決められたのですか?」

「それは、お主がユーリの気持ちを一番よく知っているからだ」

 そう、始めから老人は悟っていたのだろうか。

まるで、この一連の出来事は自分の人生を狂わせる。良い方向なのかわからない。

だけど、隣で見詰める少女のこと。

反対して、この子のことを一番に思えない人にこの責任を負わせることなど自分には出来るはずもない。

もしも、なんてもういい。

 書き記した合意書を机に置き。ユーリがそっと尋ねる。

「私……メンテナンスとか、修理に必要になったら必ず帰ってきます。約束します。私はゴウワさんにも愛情を貰っていました」

「面白い事をいう子だ。それに源蔵でよい」

 きっと老人にも少女に対する気持ちがあったのだろうか。

「ユーリ……いいんだな」

「失礼です。私はハルさんの家に住みたい。私は私なりに判断した結果です……ハルさんは御嫌ですか?」

 珍しく怒ったようにユーリが角を尖らせる。

それは、選択肢なのだろう。

そこにどんな思いがあったのか、今自分たちのことで正直手一杯だった。


これから1年前の出来事になります。

ユーリの過去でもあり、これからのほんの一部に過ぎない。

 過ぎないならば、これから何を作れば良いのだろう?

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