摂理
振り払おうとすればするほど、それは強くなる。
ならば、選択肢を選ぶ権利は誰がもっているのか?ロボットには選択できる権利は人間と同じように持っているはずなのにと彼女は思うはずなのに。
それは、大人という理不尽な権利の中をもがき苦しむ小さな子供のよう。
なのに、世界はそんな二人さえ容認してくれるわけがない。
帰り道白いワゴン車。だが、耀さまに後ろから付け狙うように動いていた。
だが、不躾にもその車はまるでユーリを狙うのはわかっていた。詰め寄られる距離。
すこしだけでも、走りを早くする。
自転車も修理しないといけないわけだし。注意をすこしでも払う。
「ユーリっ」
「は、はい」
ユーリだけでもと背中を押してみたけどそのワゴン車に見覚えがあるのだろう。つい、振り返る。
背中を押して、すこしでも現状を考えてもらわないと。
「だめだ、あの車はっ!!」
遮蔽されるかのように真横まで来た白いワゴン。
通行を阻止されまいと俺は自ら車道へと移って、ポールシフトされるかのように車を操作。そして突然にドアが開き何者かの手に引きずり込まれた。
白衣の研究員。乗務していたのは前の黒服ではない。
もしかして、と妨害にも近い抵抗も空しく薬で意識が止まった。
この場所はどこだろう?
一体、どうしてこんなところにいるのだろう。迷う自分、取り残された自分は必要にも微動した。
真っ白い部屋。それは無記名のキャンバスのよう。
白黒な空。一枚の空模様が、まるで無機質な部屋。
狭く、まるで穹がソラとしてではない。
一人で、意識を取り戻していたら……ユーリの姿がなかった。
どうすればいいと立ち上がろうとした時一瞬、眩暈がした。
ああ、薬を嗅がされたからだろうか。
「くっ……」
だけど、無理やり立ち上がる。くらくらしていたが、ユーリの安否の方が重要だ。
まだ、這ってでも歩くことが出来るのだから。見つけなきゃ。
「見つける?」
本当にいいのか?
彼女のことをちっとも考えていないのではないか、押しつけではと簡易に思考する。
何度も打ち砕く。
残された自分のすべきこと。連れ去られたユーリの行方を捜すこと。
しかし、何処にいるのだろう?
それに目を凝らしてみれば、牢屋とはちがって施錠されたわけではない。
それに記憶は、連れ去られる処までは脳裏に刻まれている。
小走りに歩幅を縮めるよう、懸命に脚を動かした。
ずきりと痛い、頭を押さえる。
「ユーリ……ゆーり」
ユーリのことだけは心配になってしまう。その前にどうして彼女に“あの白いワゴン”に見覚えがあったのだろう。
もしかして、と結果論が推測したのはこれの随分後だった。
残されてしまった自分にはどうすることもできず、呆然とする。
時計もない。
残されていたのは窓から見た空だけだ。
俺は、意地でもドアに手をかける。
そこは、自分の認識されていた世界とはかけ離れていた。
まるで、白一色に染められた世界には、光が当たらない。
軟質に思えた壁でさえ有機物一つさえ、感覚が狂う。
ソウダ、ココハ……ドウシテココニイルノダロウ。
狂った感覚の推論は、どうやら薬が切れたことによる副産物だろうけど。
「ユーリッ!!!」
走り出した足は、孤独感を埋めようともがく。
見知らぬ場所。故に判断がし難い。
だけど、本当にどうすることもできないのか?
また捕まってしまうのではないかという脳裏の言葉を押しつけて。ただひたすら奔る。
「そういえば、こんな感覚前にもあった」
母親が倒れたときだろうか。病院まで自転車で駆けていたあの時と状況が似ている。
それまで、病気一つしたことがなかった母親だったから。
一気に己が険悪すべきことさえ、邪見するしかなかった。
角を曲がり、それでも途切れることのない気持ちを胸に走り続けていた。
何処にいるんだよ。ユーリ。
「ユーリっ!!」
俺は切に願う。
あの子の無事と、あの子の………幸せを。
「ぐっ」
途中で、つんのめり床にバランスを崩して転倒。立ち上がろうとした時、膝が痛むのだ。
「冗談じゃない。俺は、ユーリを探すんだ」
ズキリと頭に訴えてくる。
だけど、今はそれを聞いているわけにはいかない。
動き出そうとした俺に間違えなく聞き慣れていた……声だった。
施設入りですね、次回は研究者の暴走ですかね。
相変わらず、微塵にも権利のないハルにはなんだか不遇っぷりが浸透しつつあるような気がします。
ああ、主人公って立場は本当に大変ですよ。