Promenade 第3話
今回は、平凡パート脱着してユーリとの平常時。
ハルにとっても、ユーリとの日常とが非現実から漸く慣れという言葉を用いることができると思った束の間くらいだと。
事の発端は、時間軸にして昨日の帰宅後から始まる。
重大発表の後に控えていたのは、彼女の住処だった。
「もしかして。一国おも翻すほどの重要機密を俺の家に預ける必要性って」
可能性としてはもっと国家予算に匹敵するほどの何かを期待と同時に、ユーリを傍で暮らせることには多少なりの幸せがあるのだが。
「ハルさん、アレ……なんですか?」
「ああ、コンビニエンスストアだ。24時間営業していることを売りにしている小売販売業の一種」
「じゃあ、アレ?」
「あれは、警察署」
「じゃあ、アレは?」
「あれは最近建てられた地上デジタルテレビ用の中継塔」
と、まるで小さな子供を相手しているようだ。
帰ってから質問攻め、もちろんノーコメントなどユーリの気をそぐわない行為はなしで。
当然、気を紛らわす程度にはいいのだが。まるで質問大好きに愛印マークを付けられてしまうくらい彼女は光景が映るごとに指さして尋ねていた。
もちろん、怒る気はない。
まあ、普段の自分にはあまり興味を示すことのない出来事に加担しているわけだから。
当然、すこし溜息。
「じゃあ、コンビニで飲み物を買おうか」
「コンビニエンスストア……」
「いや、略した方が言いやすいだろう?」
「はい、コンビニエンスストアですと滑舌がよくないです。それにコンビニだと2秒以内で言語を言いきれます」
だからといって、ゴミ箱や、プリンターを指さしてコンビニと発言されてもこまるのだが。
――コンビニの店内など、普段の行き来している学校の通りに面しているため中には詳しい。
入った矢先のATMと。使えないのにFAX機能として10円ボックスそして規定のいい店員。
店内の効きすぎた冷房と、広々とした空間には立ち読みをする帰り際のサラリーマン。
まあ、大手のコンビニにしては隅々まで綺麗になっていると思う。
実際アルバイトはしたことがないが、店員とは日常会話を交わすまでの進歩はあったわけだ。
「ユーリ?」
「ハルさん、この箱なんですか?」
手にしていたのは……まあ。想像にお任せしよう。
「いや、ユーリには全く関係ないから。それ」
女性が医療器具として出血を流出させないために作られた円柱状の綿・ガーゼである。
ユーリはロボットであるし、それ故に生理など無縁であるわけだし。
それに、今この状況で手渡すかのように反応を窺うにしては酷くこれは背徳感がうっすらと窺えた。
当り前だ。それは、タンポンだから。
間違ってもコンドームを持ってこられた時には一体どうすればよかったのだろうかと疑問に思った。
しばらく店内を進み、飲料水コーナーへと到着する。
「そういえば、ユーリは食べ物を摂取しても大丈夫なのか?」
「はい。Mlr-RDXは元来効率よくエネルギー摂取を食事から取ることに動力稼働しております」
「そうなのか。じゃあ、好きなのを適当に選んでくれ」
咄嗟に手に取ったミネラルウォーターに興味を示したのかユーリが持ってきたペットボトルを片手に会計を済ませる。
「258円になります」
500円玉で、お釣りを貰い店から出ようとするが店員に景品ボックスから炭酸飲料を無料でプレゼントの紙を偶然にも選んでしまった。
「それはなんですか? ハルさん」
「ああ、5周年記念でもプレゼントされていた。飲む、ユーリ?」
それについてだが、ユーリは当然のように興味をもってキャップを開けて一口。
「~~~~~っっ!!!」
口に含まれた炭酸飲料が飲みきることのできず、咽る。
そして、騙されたような素振り。
「いや、俺が悪いわけじゃないぞ。ユーリ」
「むぅ、むぅ」
ああ、突き返したということはお気に召さなかったらしい。
機械にも成分分析できるような真似はできるらしい。もちろん俺は炭酸飲料程に苦手な物はないわけだ。
……なんというか、舌に優しくない飲み物は好まない主義。
振り返るようにユーリをみてみる。
ちびちびと、それでもミネラルウォーターが気に入ったのか。
「よく、水を飲めるな。有機質とはいえ味に淡白のほうがいいのか?」
「いえ、私は水を人間よりも保有しなければいけばならないので。循環機関が血液ではないため人間よりもコマメに水分補給をしないといけません」
「それでも、汗として排出したりするのか?」
「いえ、代用の効く機能は不必要になった水分で賄いますが、どうしても必要とする機能が多ためです」
だけど、ユーリは……飲み干すことのできなかった炭酸飲料に再び挑戦した。
馬鹿らしいにも、咽びかえる。
だけど、諦めることがない。何度でも、何度でも挑戦していた。
「ユーリ、いいよ。飲むから」
途方に暮れて、折れたのは俺だった。
一気に口に入れて、ごくりっ、唾と一緒に呑み込む。
甘ったるいわけではない。寧ろ夏には清涼するための炭酸なのだ。
だけど、今考えると彼女に間接キスしていることに気がつくまで相当時間がかかった。
お互い、そこまで考える余裕がなかったからだ。
―――――自転車修理しないと。
「あのさ、ユーリは生活を営むことに対して不安とかないの?」
「不安? 私は、ロボットですよ。言われたことに対して絶対無二の指示が存在しているなら不安なんて言葉は私の辞書には載っていません」
「ロボット原則3定理の法則?」
「いえ、私は元々コンセプトがロボットと逸脱しているためロボット3原則は搭載されてないのです。自らの判断と、マイスターである管理者の指示が絶対というわけではありませんから」
「そうか。ロボットとしてよりも、ユーリに一つ約束をしてほしい。あくまで俺はユーリに無理なことはさせたくない。だから自分で無理なことやわからないことは遠慮せずに言って欲しい」
そんなことでしか言えなかった。
もっと彼女に対して自分よりも理解してくれて。彼女に温かな眼差しを指すことのできる人間だったら。
もっと、自分でどんなことでも彼女を守れる勇気があるのだったら。
だけど、ユーリは俺に対して期待にも満ちた眼差しを向けていた。
安心感、それにやすらぎ。
こんな自分でも……今だけでも、傍にいれたことに何よりも誇りと幸せを願う。
え、エキサイてんぐ。
まあ、その辺について深く語る必要ないですが、すみません。ユーリはロボットというよりもヒューマノイドロボットという方が正しいです。
それにおけるロボット3原則にも当て嵌まらないことはご存知の通りですが、量産型についてはここでは詳しく語っていません。
ご了承ください。