機械の天使
もし、自分がロボットとひょんなことから出会い人と機械との間にある苦悩があるのだとしたら……人は自分が無機質にたいしても恋愛感情を抱く事が出来るか。
それは、今後を左右する人生の中でもほんの一瞬のできごと。
何気ない人生を歩むことは、人間には当たり前に生きれば出来る。
普通に、ただ他人との関わり合いが、それを他人が下す自分への評価につながるだけだ。
もしも、自分から努力することができれば当然友達もできたのだろうが、八重乃 春陽という人間は生まれつき器用に生きられる人間ではなかった。
つまり、生きるためにも不器用な人間なのかもしれない。
圧倒的な膨大な人口を抱える日本。
人々の少子高齢化には歯止めは利かなくなり、各政党がマニフェストに盛り込むなど活発的な対策をしているが、こうして景気後退とも言わざるおえない現実。阻む事の多さに誰もが嘆く。
それは、俺自身もそうだった。
こうして、日常の繰り返し。そこに、母の過労の知らせを来て母親に苦労させてしまった自分への罰がバイトへと駆りたてた。
母子家庭……。
父親の姿を一回も見たことがないため、母親の優しそうな顔がいつも自分には気恥ずかしかった。
本当はもっと甘えていればよかったのだろうか。
気がつけば、青年といわれてもいいくらいの年齢になってしまえば自然とそんなことを忘れていた。
電車に揺られ、そして漸く駅へと到着した時にはラッシュ時で慌ただしく人の波と一緒に駅へと降りた。
ホームに未だに取り残された人々が牛歩のように、階段を下り駅の出口が見えてくる。
そこにクラスメイトが他愛もなく、
「おはよう、ハル」
「ああ、おはよう。吉田」
一見、体格のいい筋肉の付き方から運動系の部活に所属しているのかと大半の人が間違われる。
しかし、見た目に反して文芸部員で、立派にも部長をしていた。
中学までは有名過ぎる学校を首席で卒業したのにもかかわらず、途端高校を選ぶときには自分の家から最短の距離ということを視野に入れて選んだと堂々と言われてしまった。
ふと、肩に手をかけて聊か御機嫌斜めにもこう言ってきた。
「ハル、お前随分今日顔色悪いぞ。気の悩む事でもあったのか?」
まるで、会社の事前健康検査のようにふざけているわけでもない。
それを、大丈夫とパスカードに仕舞いこんだサイバネ規格のICカードを改札機へ。
タッチし通過して出口へと出て後に続く吉田は、ならいいかと題した顔で他所にした心配もなさそうに改札機を通している。
「なあ、バイト休みの時には中野でも行こうぜ」
気兼ねなく話せる友人など、一握りにもいない。
そうした中でも、吉田という人物は友人だと思う。
「また、中古屋を一軒一軒回るのはあまり良い休日の過ごし方ではないから的を絞ってくれると助かる」
粗方、吉田はそんなことを一切とも気にした事がない。
「そういえば、ニュースで大々的にやっていたな。人類初のヒューマノイド完成だって」
「それは、アニマトロニクスと顔の骨格的である表情パーツの完成だろう?どう考えてもヒューマノイドというよりロボットである認識の方が濃い」
ニュースで大々的に報じるには、次世代機であるロボット産業を国が代表して取り行っているからである。
「ハル……専門用語で言われても俺にはちんぷんかんぷん」
「いや、俺もニュースで見た程度だからあまり詳しい事は知らないけど、人のいくつかの喜怒哀楽に似せて作ったロボットが別の大学ではSAYAっていう簡単な会話もできるロボットに注目を置かれるって話」
「ふぅ~ん、ロボットねぇ。それはそうと、ところでハルのバイト先が電化製品店だったよな?」
「いや、中古小売業だ」
いわゆるリサイクルショップでアルバイトをしている。
それも、電気製品を主に扱うお店なためか数カ月で知識は豊富になった。
「ハルの店って随分綺麗な店だから、また寄るよ」
「ああ、できれば俺が休みの時にしてくれ。バイト中は気が抜けないから」
「うーい」
そしたやり取りが数回行われて、駅から徒歩5分も掛からないうちに学校が見えてきた。
ニューセントラルハイツ国際高等学校と呼ばれるミッションスクールと同時に進学校では新設してまだ間もない。この春入学を迎えて早半年を迎える。
そんな俺には、他人との隔てりを作り、いつも窓際に席を構えて決まって一人。
時には吉田のような友人が周りを囲むようにして、毎日を退屈せずに生き永らえている状態。
本当に、感謝しなければいけない理由が沢山あるのに言葉に出せなかった。
情けないという気持ちとやるせなさだけが葛藤して、ついいつもよりも口数がすくない。
「そういえば、ハルって結構モテるよね? 色々と見てきたけど」
「俺は、吉田の方がモテると思う。俺は人の関わりが苦手だから」
たしかにと、渋らしい顔を見せて校門をくぐる。
「この前、母親が過労で倒れたって。その知らせで見舞い行ったら案外元気そうだったな」
俺には元気よりも、すこし空元気に見えて退院してもまた俺のために働いてもらう姿が辛かった。
そのためのバイトを始めたわけだし。
「ハルっ、おはよう!」
現れたのはボーイッシュな髪とそれに似合うように、さばさばしたストレートな性格とすこしばかり女性を意識し始めたらしく、黒いニ―ソックスとスカートはどこか女性であることを示すにはさほど問題にはならなかった。
「おはよう。柚樹」
「おはよ、ユー」
と、早速柚樹からタックルされる。
俺は腰の鈍い音と、痛烈な痛さに地面に腰を落とした。
「いたっ」
「当り前じゃない。どうして、ハルのお母さんの事伝えてくれなかったのっ!!!」
それは、柚樹の性格がもしかしたら自分のせいだって思われたくなくて連絡していなかったら、吉田とくっついて病院に来てしまったらしい。
幸い、柚樹も自分の事を知っているからそれ以上の暴力を理不尽に振るうつもりはなかったようだが。
「ハル、いい? 今度こんなことあったら絶対ワタシは許さないから」
「……ああ」
教室―――。
そこに待ち構えている委員長こと、久野嘉幸はどうやら何食わぬ顔でいつものように新聞を広げていた。
眼鏡を愛用し、入学当初からズレた感覚基本人がそれに気が付いているため他人との隔てりとしての壁の位置づけが他人とはべつにある。
吉田のツッコミ役でもあり、柚樹と同級生でもあった。
「遅い、先生が来ていなければ君たち遅刻確定だったぞ」
寸分足らずの時間にもきっちりしている彼が、熟読しているのは何故か競馬。
と、
「ヨッシー……」
吉田がその言葉を口にした瞬間、0.2秒以内に返答が返ってくる。
「ちょっとまてヨッシーいうなっ、わたしはそんな珍獣ドラゴンではないぞ」
「いや、今さっき決めた」
「まあ、吉田に構うほど暇ではない。問題は、ハルの方だ」
「俺に?」
「そうだ、ハル。お前は今一人暮らしをしているはずだ。もしよかったらお前に遣ってもらいたいものがある」
手元に差し出した封筒。
そこには紛れもなく現金が入っていて、何故これを手渡す必要があるのか。
「お金には……」
「困っていないなんて嘘をつくなよ。お前はそうして毎日の昼を抜かしている姿を見せ付けられるのは無惨だからさ。べつに嫌なら返してもらってもいいがこれは今のお前には絶対必要なものだろう?」
「ありがとう。大切に扱わせてもらうよ」
そう、彼には生活面での工面。どうして苦しいかなんて他人には伝えてもいないはずなのに久野は現金入りの封筒を手渡してくれる。
彼だってバイトであり、それは生活費の一部なのかもしれない。
だけど、久野には俺をどうしても見過ごせないと苦しい状況を補助してくれる。
それに、お金を使えと。返すことを拒否することがまるで自分を影から助けてくれた。
「それと草薙」
柚樹がびくりと震える。
「な、なんだ? ワタシは久野に用事はないぞ」
「いや、大在りだ。お前バイト、サボるなよ」
バイトが共通なため、どうやらサボりも厳禁らしい。
だが柚樹は、あまり気にしているわけでもなく
「まあ善処しておく」
ふくれっ面にもそう言い残して一人隣に居座る様に占拠し始めた。
そこからのやり取りは、たぶん普段と変わりない。
講師の先生を半ば舐めきるクラスメイトと、そして真剣な趣でノートに取る見幕の差が小テストで有無をいう。
俺は、勉強もできる立場ではない。
べつに難しいというわけでもないから、柚樹のわからなさそうな顔を隣から説明文と解釈を書いてノートを差し出す。
それを手紙交換と間違えた講師の先生に眉を細められその場において注意にも似たように
「お前ら、仲いいな。大体いつも隣でくっついているし、あまり学校で騒ぎになる事は起こすんじゃないぞ」
「はぁーい」
「春陽もだ」
「………はい」
どっとクラスメイトの笑い声が聞こえ、すこしばかり小さくなる。
あまり悪いと認識はしていなかったが、考えてみれば柚樹は年頃の女の子であって……ソレは彼女が一番よく知っているはずだから。
そこに、冷やかしの面が来る事を予想していたら席が隣同士になる事は暫く避ける事になる。
たぶん、柚樹は嫌だって思ったのだろう。
「ふんっ、余計なお世話よ。それにワタシは、なにがあっても春陽の味方だ」
空気を読むことは決してない。
いつも自分の我儘で。
周りはそれが無意識にも、笑いが消え静まり返っていた。
「ユー、時と場合があるだろう。ハルが困惑しているから……」
どう反応してよいものか、この時ばかりは戸惑っていた。
だけど、柚樹は嘘がついたことがない。
他人に、“なにがあっても味方”なんてこと言うことができるだろうか。
学校が終わり、自転車を駐車場の一角に止めて裏口とも呼ばれる事務所出入り口へと入った。
バイト先では制服から私服へと着替えて、LEXUSというすこし変わったリサイクルショップのバックヤードと呼ばれる倉庫にお客様から買い取った商品を保管している。
買い取った中でも、不良品であるということはここで修理を担当するバイトを始めて数カ月が経つが未だに見習い。
大抵は中身を確認し、動作チェックするだけで済むのだが今こうして格闘しているのは年代もののアンティーク商品。
「このオーディオ、年期入っているからな」
コンポンネートステレオを分解して、内部の基盤を変えてようやく音楽が聴けるまで修復できる。
「うわっ、7時を回っているじゃないか」
携帯の画面を見て、御店回りをせず裏でこんなことしていていいのだろうか?
だが、すこし一息していたら突然荷物搬入口からトラック。
「すみません、トラネコヤマトですが判子おねがいします」
「あ、はい」
重たそうに抱えていた荷物が、運転手2人でようやく運んでいた。
ドンと、すこし乱暴だが床に荷物を置いて確認したが届いた荷物には差出人不明、身元も不明。商品も不明。
「ありがとうございます」
宅配運搬をあまり取り扱うお店ではないのに、こうして発送者から速達でくるものは大抵サンプル品か大企業の根回し。
トラネコヤマトの人を見送って、携帯画面から店長の電話を呼び出す。
「すみません、店長。不審荷物が届いたのですが」
「ああ、開封厳禁じゃないわけだし開封して中身確認してくれ。多分サンプル品だから貰って行って構わないよ」
仕方なく溜息つく間もなく、携帯を取り出して電話に出た店長は、どうやら他の仕事に追いやられているらしい。
いつも搬入で来るトラックとはまるで違う。
そして何故かトラネコヤマト。
「………誰かの個人所有物なのかな?」
そしたら、開封することは何らかの機嫌を損ねる理由になる。
無理に開放するべきではないが。この場合店長指示ということで、箱を持ち上げようとする。
しかし、重い。
軽く50kgはあるのだろう。
両手でもっても、全力を出さない限り運搬できるサイズでもないわけだし。
この時ばかりは、箱の中について興味本位だったのだろう。
閉じていた段ボールに手をかけて何事も動じず、ガムテープを剥がして一息つきまもない。
広いスペースで、段ボールを開けてみた。
覗きこむと、
――――――そこには全裸の少女が眠っていた。
どうも皆様初めまして、青咲紬です。
初めて登校することになりましたので、ぜひお願い致します。
今回は第1話ということで、すごく戸惑いがありましたがすこしばかり。
最高技術で作られたロボットがいる顔もすごく美形だし、誰もが人だって思わせちゃうロボット。 だけど、そのロだけど、人に近いが故に誰かを好きになったりとか嫌いになったりすることだって。
ロボットという時点で人ではないわけですから。